今年中国で、宮沢賢治の名作童話などをまとめた「宮沢賢治童話選集(全5冊)」と「宮沢賢治傑作選(全1冊)」が翻訳出版されました。担当者である、サンマーク出版・梶原光政(かじわら・みつまさ)さんにお話を伺いました。
Q.作品の紹介をお願いします。
A.宮沢賢治はたくさんの童話作品を残しています。その中から、「貝の火」「双子の星」「月夜のでんしんばしら」「虔十公園林(けんじゅうこうえんりん)」「よだかの星」を絵本として出版しました。それと同時に、「風の又三郎」「銀河鉄道の夜」などを1冊にまとめたものも出版しました。
Q.中国語版を出版することになったいきさつは?
A.7、8年前に英語版を翻訳出版しました。今回は中国語版です。世界のみなさんに、宮沢賢治のすばらしさを知ってほしいからです。
Q.計画が持ち上がったのはいつ頃ですか?
A.4年前だったと思います。日本と中国は1000年、2000年単位で交流してきましたが、途中不幸な時代もありましたよね。さらに、計画が持ち上がった当時は、政治的にもギクシャクした感じがありました。「これじゃあいけない」「今こそやらなければ」という思いで進めてきました。
Q.一般書店での販売と平行して、北京市内の小学校への無料配布を行ったそうですね?
A.中国では出版業界のシステムの違いなどがあり、日本で出版するようにはなかなかいきません。それでも、ひとりでも多くの人に宮沢賢治の作品を紹介したいと思いました。特に、ものの考え方がやわらかい子供たちに読んでほしい、と。そこで、北京の小学生に贈呈することになりました。北京市内には2000校弱の小学校がありますので、2000冊は贈呈用、1000冊は書店での販売用に準備しました。
Q.宮沢賢治は国内外にファンが多いですが、梶原さんから見て彼の作品の魅力は?
A.ひとことで言うと、思いやりの心が満ち溢れているところです。おろかで、弱くて、馬鹿で・・・どうしようもないと思われている人の中にこそ、輝くものがある。今、経済のグローバル化や成果主義が世界を覆い尽くしています。日本もそうだし、中国もそうなりつつある。そんな中で、忘れられていくものがあるのではないか?と。そういう社会では、力の強い者やお金のある者、地位や名誉のある者が中心になっていきます。力の弱い人やお金のない人はどうやって生きていけばよいか?というところに、賢治は視点を持っていたんです。
Q.反響は寄せられていますか?
A.今年4月に刊行、5月から7月にかけて少しずつ贈呈が進みました。最初は、「日本の本なんて、アニメや漫画しかないんじゃいないか」という学校が多かったです。日本と中国って、まだまだ相互理解がうまくできていないんですよ。「いらない」と言った学校もあったらしいです。しかし、熱心に取り組むうちに、「これはいい本だから子供たちに読ませよう」と言ってくれるようになりました。まさに、交流の小さなお手伝いができたと思います。
Q.中国と日本の出版界の交流について、期待されることは?
A.違いを認めた上で、歩み寄りながら共同作業をする。それが大事です。中国の変わり方は、いま、本当に激しい。うまくコミュニケーションをとりながら、相互的に協力をしていけば、必ずいい方向に向かっていくと思います。東洋的なものの見方は共通しているから、相互理解ができないはずはありません。
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