北京の東西を走る地下鉄1号線の西の終着駅「苹果園」から、路線バス929番に乗って、さらに2時間半。高層ビルが立ち並び、ビジネスマンが闊歩する北京の喧騒とは全く異なる世界がそこにはある。けわしく切り立った山のふもとに身を寄せ合うようにして集まる集落・・・その中で、中国歴史文化村の一つに指定されている「霊水村」は、まるで時に埋もれたような佇まいの村だ。名前からして、いかにも霊験あらたかな感じがする。実は、北京で最も早くから人類が住んだ地帯の一つ。ここは、西から山岳地帯を抜ける重要なルートであり、1000年以上の歴史を持っている。道沿いを行くと石造りの家々や、崩れかけた寺の残骸や、驚くほどの大木が何本も生育しているのにぶつかる。
小さな村ではあるが、「誇り高き」村でもある。村の入り口には「霊水挙人村」との看板が高々と掲げてある。かつての王朝が高級官僚を選抜した「科挙」の合格者、「挙人」を5人も出したということがこの村の自慢だ。大学入試前になると、北京の受験生がわざわざ、それにあやかろうとやってくる。
人口700人ばかりの小さな村。西暦992年の石柱にもこの村について言及した銘文がある。地元の人の話によると、今の村の様子は元の時代からほとんど変わらず、家の多くは明、清時代のものだそうだ。
元といえば、あのフビライ・ハーンの時代。そのころと変わらないという街並みを眺めながら、明時代の石造りの家の作りをじっくりと堪能する・・・長い歴史に思いを馳せながら・・・日本はもちろん、北京市中心部でも決して味わうことのできないタイムスリップの旅である。
近くには観光地としてすっかり有名となった「川底下村」もあるが、村の雰囲気は霊水村のほうが抜群にいい。隣村は、村の中心に元代から続く教会を戴く、これまた不思議ムードの漂う村だ。このあたり一帯の古村に対する興味はつきない・・・。
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