1992年にユネスコの世界自然遺産として登録された九寨溝にはこのような伝説があります。むかしむかし、男神が美しい磨き上げた宝鏡を、恋い慕っていた女神にプレゼントしましたが、女神はうっかり宝鏡を落としてしまったのです。それは山の奥に砕け散り、114の青く澄んだ湖になりました。こうして、この世に九寨溝という夢の世界が現れたということです。
九寨溝のひすい色の湖や幾重にも流れ落ちる滝、雪山、四季折々に違う色を見せる木々、そして、チベット族の風情は、人々に「九寨五絶」、九寨溝の五つの絶景と称えられています。都会とは遠くかけ離れたこの山地は、ことのほか空気が澄んでいます。50キロ先まで見わたせるほどです。雪解け水が地中でろ過され、数珠のように連なる湖沼に流れ込みます。青々とした空の光をうけとって、湖水の色はけんらん多彩に変化しています。
「五花海」が九寨溝の絶景といわれているのは、湖底のトラバーチン堆積と色彩豊かな藻類、沈殿する植物などが分布して、湖面に鮮やかな色彩を生み出しているからです。赤、オレンジ、黄、緑、青、藍、紫など、湖はまるで多彩な宝石がはめ込まれてできたかのようです。
九寨溝にある17の瀑布のうち、よく知られるのは「樹正」「諾日朗」「珍珠灘」の三大瀑布です。「樹正瀑布」は、「九寨溝の縮図」と呼ばれる「樹正溝」に位置しています。上流の河がゆっくりと浅瀬を流れ、崖の端の樹木に分けられ、無数の水の束をつくっています。その瞬間、弓なりになった山崖から水流がほとばしり落ちてくるのです。
「諾日朗瀑布」は、Y字型の渓谷の中心にあります。その幅は320メートルで、これまでに中国で発見された最大幅のトラバーチン化瀑布です。「諾日朗」とはチベット語で「男神」を指し、「壮大、雄大」の意味で、ダイナミックな勢いから、名づけられたものだそうです。
「日則溝」に位置する「珍珠灘瀑布」は、九寨溝でもっとも美しい滝です。向かいの崖の上から瀑布を見下ろすと、長さ約500メートル、幅200メートル近くの激流は曲線を描いて深さ40メートルの谷底へと流れおち、なんともいえない美しさです。谷底の傍らから仰ぎ見ると、また違う趣があります。落水の音がとどろき、しぶきが飛び散り、はね上がり、まるで勢い盛んな「千軍万馬」のようです。
「則査窪溝」の源は、九寨溝最大の湖、標高3060メートルにある「長海」です。ここの景観は九寨溝でもっとも壮麗で、「S」字型の湖は長さが約5キロ、最大幅が600メートルで、群青色の湖の両側には雲までそびえる雪山が聳え立っています。それら雪山の標高は、いずれも4000メートルの「雪線」(真夏でも雪が融けない高さの地点を連ねた線)以上あります。
九寨溝に生いしげる林と湖は、植生分布が立体的、典型的で多様です。彩林植物、水生植物、地衣類などがここに共生して、高等植物は2576種、下等植物は四百種あまりあります。そうした植物は、九寨溝の四季における多様な色彩をつくりだしています。
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