埋もれ木は貴重な木材です。昔から、「宝物」と考えられてきました。硬くて重量感があり、美しく黒光りした埋れ木は、高級木材として、重宝されています。そして世界中には、この埋れ木の美しい黒色に魅せられた「埋れ木愛好家」が大勢います。
中国南西部に位置する四川省の成都平原は世界でも有名な埋れ木の産地のひとつです。ここには、台湾出身の方が経営する埋れ木芸術博物館があります。
ロ泓傑さんは台湾出身の実業家です。今は四川省の省都、成都に住んでいます。ロさんもまた、埋れ木に魅せられた一人です。埋れ木に惚れこんだロさんは、3000万元(4億5000万円)を投じて、成都に世界唯一の「埋れ木芸術博物館」を建てました。ロさんの話です。
「もし台湾で同じような博物館を建てようとすると、かなり多くの方面の人たちから協力を仰がないと難しいのです。しかし、四川省は自然状況に恵まれていますし、あと政府がサポートしてくれるというのが心強いですね。文化産業の発展ということなら、積極的に支援してくれます。」
ロさんは、台湾南部の生まれで、有名な自然公園のあるところで育ちました。幼いときから、大自然に強い興味を抱いてきました。その後、不動産投資で利益を上げたロさんは、台湾の不動産界でも有名な実業家となったのです。そんなロさんが、埋れ木と出会ったのは、このころでした。
「ある日、郊外の水辺で、美しく黒光りする・・そう宝石のようなものを見つけたんです。触ってみたら、手触りは木のような気がするのです。珍しいから、成都に持ちかえって、祖母に見せたんです。そうしたら、これは埋れ木だよと教えてくれたんです。」
そのときから、ロさんは埋れ木に大きな興味を持つようになりました。埋れ木について、調査を進めていくうちに、これが地元の地質変遷の研究につながっていることが分かりました。
ロさんは、あちこちを歩いて、埋れ木を集め始めました。
さてその頃、ロさんは、自分と同じく自然が大好きな女性、羅艶さんと出会い、一生の伴侶としていました。
奥さんの羅さんは、当時のことを振り返って、こう話します。
「夫の様子を見ていて、埋れ木の収集はとても大変だなあと思っていました。埋れ木があるって聞いたら、朝早く出かけて、夜遅くに帰ってきます。その時はもう泥だらけです。埋れ木は地中にありますから、それを掘り出すために、泥だらけになるわけです。私も最初はあきれていましたが、だんだんと応援するようになりました。」
ロさんは埋れ木を捜すため、四川省のいろんなところに行きました。1996年、ロさんが収集した埋れ木は2000立方メートルに達しました。そして、これらを多くの人たちに見てもらえるよう、埋れ木博物館を建てることを考え始めたのです。
「埋れ木は長い歳月をかけて生まれるものです。これをいい条件で、保存できればいいなあという・・・博物館を建てたいと考えた動機です。そして、埋れ木をよりよく、後の世代に伝えていければと思ったのです。」
成都市政府の支援もあり、ロさんの埋れ木博物館の建設はトントン拍子に進みました。中は、「自然」と「人文」の二つに大きく分けられ、埋れ木の木材そのものだけでなく、埋れ木でできた作品1000点あまりも展示されています。
埋れ木芸術博物館学術部の林芯主任は「ロさんは台湾を代表して、大陸に投資をしています。そのやり方は、「文化の投資」です。これは、そう短時間のうちには、効果が見えてきません。しかし、少なくとも、このことは、ロさんが、大勢の台湾市民の祖国を愛する心、自分たちの文化を守ることへの思いを表現したと言うことで、大きな意味を持つと思います。」と話しました。
埋れ木博物館は決して収益が多いわけではありません。でも、ロさんはこのことを一向に気にしていません。埋れ木を誰よりも愛するロさんは、自分のコレクションを絶対に売ろうとしません。ある人が1200万元(1億8000万円)でコレクションの一つを買おうとしましたが、呂さんは手放そうとしませんでした。人の手に渡ったあと、この大切な自然の恵みが、どう扱われるのかが心配だったからです。ロさんの目標は「もっと多くの埋れ木を収集して、全世界に誇れる埋れ木博物館をつくる」こと。ロさんの埋れ木への思いは尽きません。
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