中国の人が飲んでいる牛乳のうち、その半分が内蒙古自治区で生産されたものです。内蒙古自治区には、中国の大手乳製品企業が二社あり、本部はいずれも省都のフフホト市にあります。2005年に、中国乳製品工業協会がフフホト市を「ミルクの都」と名づけました。

　フフホト市は中国で最も大規模な乳製品の加工基地を持っています。フフホト市の湯愛軍市長の話によると、「去年、フフホト市の牧畜民の一人当たりの年間所得は5300元余りだった。そのうち、乳牛の飼育とミルクの販売による所得が2400元を超えている。これらの数字から、酪農業の急速な発展がフフホトの牧畜民の利益を支えていることが分かるだろう」ということです。

　内蒙古自治区の大手乳製品企業はイリという企業グループと蒙牛という企業グループです。

　イリは国有の乳製品工場でしたが、1993年に株式会社になりました。現在、イリは中国の乳製品企業の最大手となりました。良質な牧場を200ヶ所持っていて、搾乳しているホルスタインは200万頭余りもいます。イリに牛乳を売っている牧畜民は500万人余りもいます。去年、イリの販売額は163億元を超え、中国で最大手の牛乳メーカーとなりました。イリが生産した乳製品は、東南アジアと南米にも輸出されているそうです。

　それから、蒙牛も内蒙古自治区の大手乳製品企業です。去年の販売額はイリよりわずか1億元少ない162億元でした。1999年、当時イリの副社長だった牛根生さんは会社をやめ、7人の部下を連れて、今の蒙牛を作りました。現在、蒙牛グループの株主は3000万人に及び、国内外で蒙牛の牛乳を飲んでいる人が3億5000万人を超えています。

　イリと蒙牛は牧畜民からより多くの牛乳を買い取るため、それぞれ優遇措置を行っています。両社とも、利息のない資金を現地の牧畜民に融資しています。現地の農牧民に乳牛を飼育してもらうため、ホルスタインと飼料の購入資金を提供します。そして、資金を借りた牧畜民は会社のパートナーとなり、現金のかわりに基準に合格したホルスタインでローンを返すことが認められています。

　内蒙古人民放送局フフホト駐在支局の張向之支局長は、蒙牛グループと契約を結んでいる牧畜民に知り合いがいます。彼の話では、「乳牛の飼育について、蒙牛が派遣する技術員と現地の牧畜指導員がいつでも牧場へ行って、牧畜民にホルスタインの飼育知識を教えたり、防疫の予防接種を手伝ったりする。こうした、政府と企業の連携によって、現地の牧畜民は乳牛を飼育して収入を増やすことができた」とのことです。

　イリでは蒙牛に負けずに、ホルスタインを預かる預託サービスを行っています。イリグループの行政管理担当の王さんは次のように紹介しました。

　「去年からイリでは、ホルスタインの預託サービスを行う乳牛合作社を作った。牧畜民は購入したホルスタインを乳牛合作社に預ければ、世話を全然しなくても、年末に配当を受けることができる。合作社は牧畜民の代わりに、ホルスタインの飼育、予防接種、牛乳の生産など、すべての世話をする。こうして、牛乳の品質を確保でき、牧畜民の負担を軽減することもできる」

　一方、蒙牛本部の近くには、直営牧場があります。牧場では、10000頭以上のホルスタインを預かっています。この牧場では、毎日出る700トンの糞や汚水をリサイクルしています。牛糞を地下室に保存、発酵させ、発生するメタンガスで発電して、電気の自給自足を実現しました。そして余った電力を華北地区の電力会社に売却しています。それに、牛糞を水で薄めて周りの砂漠化した土地に撒き、土壌改良した土地に牧草を植えています。固体に加工した牛糞は肥料として花卉市場で販売されています。

　今の生活について、イリに牛乳を売っている牧畜民の松波さんはにこにこしながら次のように話しました。

　「ホルスタインを飼ってから、我が家の生活は急に豊かになってきた。5頭持っていますが、全然負担にならない。牛の飼育は全部イリの牧場がやってくれる。毎月、予定通りに牛乳の買い取り料金を支払ってくれる。毎年その所得は15000元になる。うちには二台のオートバイがあるが、町へ行くときはいつもオートバイである」

　ところで、中国のスーパーでは、外国ブランドの乳製品もよく見かけますが、みんなはやはり国産のミルクを愛飲しているそうです。スーパーでであったヒライさんの話です。

　「イリと蒙牛の牛乳は中国で好まれているよ。質がいいし、値段も高くないから。大手メーカーだから、安心して飲める。毎週、買っている。外資系企業の牛乳は余り飲まない」

　大手の牛乳会社が競い合っているからこそ、安くて質の良い牛乳が作られ、生産者の暮らしも楽になると言えそうです。草原での牧畜から牛舎での牛乳生産に産業転換が図られているそうですが、牛乳を手がけるみんなの暮らしができるだけ豊かになってほしいと思います。また、イリは蒙牛との競争に勝って、オリンピックの指定乳製品生産企業となりました。これから、イリと蒙牛の争いはますます激しくなっていくことでしょう。（文：姜平）