「おばさん、おばさんはなんと言う名前なの?おいらは朱元璋というものだけど。このご恩はきっと返すよ。きっとだよ」
「何を言ってんだよ。坊やは朱元璋というのかえ?いい名前だね。でも。恩なんて返してもらわなくてもいいよ。この世の貧しいものは、みな仲間だからね。あたしは王といって、鳳陽の石村に住む王大楞の母親だよ」
こうして朱元璋は別れを惜しみながらばあさんのもとを離れていった。
それから十数年の月日が流れた。かの物乞いをしていた少年の朱元璋はなんと、明王朝の開国皇帝となり、毎日山の幸、海の幸を食べていたが、そのうちに飽きが来た。
「なんか。驚くほどうまいものはないかのう?うん?あればむかし物乞いをして各地を流浪していたときのことじゃった。あの婆さんが作ってくれたのはうまかったワイ。あれはたしか"真珠、翡翠、白玉湯"といったなあ。そうじゃ、そうじゃ」と朱元璋は宮殿の料理人にこの"真珠翡翠白玉湯"を作らした。ところが出来たものは当時のうまさがない。怒った朱元璋は、その料理人の首を刎ね、また別の料理人に作らせたが、どうもうまくいかない。こうして料理人はかわいそうに七八人が殺された。これを見て慌てた臣下たちが申し出た。
「どうでございましょう。その王という老婆を宮殿に連れてまいり、陛下のためにそのなんとかいうものを作られましては?」
「ウン。それはいい案じゃ。さっそく人をやってあの婆さんを宮殿に連れてまいれ」
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