これを見た三勇士のもう一人である古冶子があせって「虎を殴り殺すなんて大したことがない、むかし私は暴れ狂う黄河で大亀を殺し、陛下のお命を救ったことがある。これは公孫捷の功労よりは小さくはないはず」と話すと、国王は、まさにそうだと思い、残った桃を古冶子に賜った。
こちら三勇士の最後の一人である田開強は、もう居ても立ってもいられなかった。彼はブリブリ怒り出し、自分がむかし軍を率いて敵国を攻め、敵兵を五百 人以上捕まえ、国のために大きな功績を残したと言い、国王に、自分の功労はどうなのかと聞いた。これには斉の王、「確かにお前の功労は大きい。だがもう遅い、桃がなくなったからまた改めて褒美しよう」と慰めた。しかし田開強はこれには耳を貸さず、国のために戦った自分が国王に冷たくされ、みんなの前で恥をかかされたと思い、激怒してその場で剣を抜いて自殺した。それを目にした勇士の公孫捷も、「私の功労は小さいのに褒美をもらったが、田将軍は功労大きくして冷遇されたるは、確かに不合理である」と言って剣を抜き自害した。そすると残った勇士の古冶子も前に出て「我ら三人は生死を共にすると誓った仲。彼ら二人が死んだ今は、私も一人で生き延びようと思わん」と言って己の命を絶ったのである。こうして、斉の国王は止めることもできずに、三勇士がいずれもあっという間に自害したので、来賓たちも非常に驚いた。このように晏嬰は己の知恵を用い、たった二つの桃を使って、三人の勇士を殺し、国の災いを巧みに取り除いたのである。
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