中国と日本の刑事法学界で約30年続いてきた交流を総括し、次世代へのバトンタッチを目的とする学術検討会「日中刑事法学の現在と未来」が30日、北京にある中国人民大学で開かれました。日本の公益信託・安田和風記念アジア青少年交流基金(略称「安田基金」)の後援と中国人民大学日本法研究所の協力の下、中国人民大学刑事法律科科学研究センターと日中刑事法研究会の共催で開かれたものです。日中刑事法学研究会、安田基金の奨学生及び中日双方の刑法学者が中心となり、中国の司法当局の関係者や弁護士、学生ら約160人が参加しました。
みずほ信託銀行が母体の安田基金は1991年に発足後、刑事法専攻の中国人学生の日本留学を支援してきました。同基金は2015年、新たに2人の奨学生を決めて解散するまで、支援した中国人学生は20人あまりに上ります。これら奨学生のうち、現在は中国の大学や研究所、弁護士事務所で活躍し、中国の刑法学界でも重要なポジションに就いている人も大勢います。
中日の刑事法学界の交流の歴史は1988年に遡ることができます。当時、早稲田大学総長だった西原春夫氏の呼びかけにより、「中日刑事法学術討論会」がこの年に初めて開かれ、交流のメカニズムは現在も続いています。「日中刑事法研究会」はこの交流の流れを踏まえた上、2001年に発足した団体です。同研究会は安田基金の奨学生の人選にも深く関わり、その後の中日の刑法学界における人的ネットワーク作りにも努めてきました。今回の検討会は、安田基金の解散および西原春夫氏と中国側パートナーで、高銘暄中国人民大学終身教授の米寿を記念するため開催されたものです。
検討会では、高銘暄氏と西原春夫氏による中日刑事法学交流の回顧と総括が行われました。また、早稲田大学の山口厚教授と清華大学の張明楷教授が日中の刑法学の現状と未来をテーマにそれぞれ講演し、参加者からの質問を交えながらのディスカッションが行われました。
国際刑法学界のノーベル賞と呼ばれている「ベッカリーア賞」をアジアで初めて受賞した高銘暄氏は席上、27年間にわたる中日の刑事法交流を振り返って、「尊重し合い、友情を重んじ、互いの国家制度を軽はずみに評価しないなどという暗黙の了解の下で、終始友好的な雰囲気で開かれてきた。互いの理解を深め、比較研究において多くの収穫を得た交流だった」と話しました。
西原春夫氏は挨拶で、近年、両国関係に紆余曲折があったものの、中日刑法学界の交流は「びくともせずに」継続されていることに言及し、「創始者としてこれに勝る喜びはない」と話しました。その上で、自ら中国刑法学界との交流を推し進めてきたことのきっかけについて、「1945年夏の終戦時に17歳の少年としての私が考えたこと、過去の日本がアジアでしでかしたことの償いは何代にもわたって続けなければならない」と振り返り、「その実践を、私の生涯最後の仕事とする」と新たな決意を示して締めくくりました。
西原春夫氏と(左)高銘暄氏(右)
日中刑事法研究会会長で、早稲田大学の山口厚教授はCRIのインタビューに対して、「自らがこの交流会に関わるようになった十数年の間に、基礎的な部分への相互理解からスタートしたものの、現在は同じような問題について、互いに解決策を示し、それぞれの特質を比較検討するようになっている。議論がどんどん高度化していることを実感している」と話しています。また、多くの中国人学者が日本との交流を通して、多くのことを勉強したという感想があることに対して、山口氏は「比較研究を通して相手国と自分の相違点を勉強することで、新たな視点、問題点に気がつく。日本としても、中国の日本と違う部分について理解を深め、日本の刑法学をさらに良くしていく観点から勉強していきたい」と交流の意義を改めて語り、その上で、日本への留学から帰国した若手・中堅の学者が留学で身につけた知見を生かしつつ、今後さらに活躍されることを期待すると話しました。(王小燕)
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