2012年5月、私は北京で初めて習氏にお目にかかった。半年後の2012年11月、習氏は中国共産党中央委員会総書記に選出された。彼が就任してからの2年間を観察していっそう深く理解できたのは、過去40年間に中国の上層部の政治家の利害関心と視角にきわめて大きな変化が生じたこと、また同時に、中国の内政・外交上の伝統が堅持されていることだった。
古代エジプトなどのいわゆる古代文明国と比べると、中華文明は5000年のあいだ連綿と絶えることなく続き、しかも今でも活力に満ちている。儒教思想に代表される中国の伝統は少なくとも1000年余り支配的な地位を占めてきた。それは中国には全国民に影響を及ぼすような大一統の国教がないことを意味しており、道教、仏教、ヒンズー教、キリスト教、イスラム教はここでは仲良くそれぞれの影響力を発揮してきた。王侯による権力争いはあったが、宗教が重要な役割を果たすことはかつてなかった。たとえモンゴル人や満州人が中原を占拠しても、このような局面に抵触することはなく、モンゴル人や満州人は逆に自らの統治を漢族の伝統に順応させ、溶け込んでいった。
15世紀には、中国の文明の発展は造船でも印刷でも軍事技術でも、すべて世界トップであった。一方、当時ヨーロッパの工業化は萌芽期にあり、北アメリカもその後に従った。19世紀、ヨーロッパ列強は中国を完全に占領してはいなかったが、すでにいわゆる租界を設けており、英国、フランス、スペイン、ポルトガルはその中で先頭を切っていた。ドイツもその中に加わった。19世紀に中国は暫定的な挫折をこうむり、弱体化していった。日本が20世紀に中国に対して進めた大規模な殖民によって、中国は塗炭の苦しみに陥った。孫中山(孫文)らの長年のたゆまぬ努力によって、中国は外国の強権から脱し、中国人民は1949年ついに毛沢東の指導下に勝利をとげ、新中国を建国した。毛沢東は当時の中国のまぎれもない政治的領袖であり、今日の中国は毛沢東の打ち固めた基礎の上に築かれた。
しかし、毛沢東は非常に大きな過ちを犯した。特に1950年代、60年代の「大躍進」と「プロレタリア階級文化大革命」がそうである。1976年に毛沢東が亡くなると、鄧小平が最終的に国家の最高指導者となった。正に彼の指導下で、中国は対外開放を実現し、グローバル経済に溶け込むようになった。さらにこれも彼の指導下で、中国は絶え間なく豊かさを目指す道を歩み始めた。
改革開放以来35年間の急速な発展を経て、中国の経済規模は今日すでに世界第2位となり、あと何年もたたずに第1位になる見込みである。こう予測するのは国家と上層部が比較的安定しているからである。習近平を中核とする中国の新たな指導者層はこのような発展モデルを確信しており、同時に、経済の急速な発展がもたらす煩雑で重要で膨大な任務を処理しなければならない。2020年には都市・農村の一人当たりの収入を2010年比で倍増させ、引き続き中国の特色ある社会主義を完全なものとし、発展させ、国家ガバナンス体系とガバナンス能力の現代化を推進し、中国の長期的発展のために堅固な基礎を打ち固めなければならない。新しいタイプの工業化、情報化、都市化、農業の現代化の共同発展を推し進め、同時に投資と消費を喚起し、金融業も改革しなければならない。習近平がとりわけ重視しているのは、腐敗、環境汚染、違法な土地の占有、労使紛争、食品の安全欠如などにより引き起こされる問題である。
大都市のスモッグに対する処置は重要な課題だ。二酸化炭素のスモッグをもたらす原因は複雑に絡み合っており、複数の対策措置を同時に、大規模に投入する必要があり、一般庶民へのエネルギー供給や彼らの収入に影響を与え、また国家の気候政策にも影響してくる。地球の温暖化阻止の掛け声を前にして、中国は傍観者になり続けることはできない。
絶えず強まる高齢化も中国が直面するもう一つの深刻な問題である。高齢化は都市化にともない急激に進行しており、全国的な老後保障がまったなしとなっている。同時に、中国では一人っ子政策が見直しを迫られている。中国の戸籍制度も早急に調整を要する。
今日中国を訪れる人は、中国が同時に多くの仕事を推進していることに気づくだろう。農民労働者の権利はより保障されるようになり、より大きな高収益の農業企業が現れた。もし40年前の毛沢東時代を経験してきて、あの当時の状況と今日の中国とを比較したなら、今日の中国公民の発展空間、自由、さまざまな権利など、すべてが尋常ならぬ広がりを獲得したことが分かるだろう。
疑いもなく、中国は伝統と現代化の調和ある共存を実現した。2500年にわたり、中国人は常に儒教の理性倫理学を信奉してきた。20世紀初頭までの少なくとも1000年以上のあいだ、中国は封建官僚に統治され、儒教思想は中国の指導的思想であった。中国共産党は1949年に政治を執るようになると、まず儒教思想を排除した。しかし、今日の中国では、事実上中国人とは切っても切れない儒教思想がまさに回帰しつつある。習近平主席の儒教思想についての説明は、中国の日増しに強まる文化的自信をはっきりと示している。中国のような大きな国では、国家の凝集力が非常に重要である。ただし、民族主義に頼ればかえってその害をこうむるだろう。なぜなら、それは不本意な危機、甚だしきは戦争を引き起こす可能性があるからだ。そして、悠久の歴史をもち内容豊かな中華文明のほうが、より中国人の自信と自覚を強めることができるからだ。実際、中国5000年の文化の中には帝国主義的発想はいささかも見出すことができない。中国はずっと和を貴しとしてきた。一例をあげれば、中国の歴史に記載のある15世紀の航海家鄭和将軍は、海上の優勢を握っていたにもかかわらず、武力を濫用することはなかった。
第二次大戦後、西欧諸国は中国に対して徐々に比較的理性的な態度をとるようになった。ユーラシア大陸はまず経済の分野でしだいに接近を果たした。今では、EUは中国の最大の貿易パートナーであり、中国はEUの第二の貿易パートナーである。中国・ドイツ関係も有史以来最も良好な時期にある。
しかし、私がずっと残念に思っていたのは、中国の上層指導層の欧米に対する理解のほうが常に欧米の中国に対する理解より多いということだ。習近平主席のこの新しい著作の刊行はこのような現状を変える有益な試みの一つである。本書は外国の読者に、中国の指導者がどのような哲学に従っているのか、中国の向かう方向はいかなる戦略方針に基づいているのかを教えてくれる。これで、世界はよりよく中国の発展、特に中国の内政・外交政策を調べ、理解することができる。習近平主席は中華民族の復興という中国の夢を実現することを希望している。中国はそのためには必ず自らの道を見出し、再び世界の強国とならねばならない。このような本は外国の読者が客観的、歴史的、多角的に中国を観察し、よりよく中国を理解し、より全面的に中国を認識する助けとなる。欧米諸国はたびたびせっかちになって、中国および中国の指導者の面前で教師の役目を演じようとする。人に教えようとするこうした態度は往々にしてその傲慢さゆえに壁に突き当たる。欧米諸国はもう少し気を利かせて一歩退き、公平な競争に役割を委ねるべきなのかもしれない。
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2014年12月3日
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