北魏の時代に平城(現在の大同)から洛陽に遷都した時から400余年にわたって開削、造営が続いた石窟で、その総数は洞が2345、仏塔が70余座あるそうです。
龍門石窟専属の日本語ガイド、張圓さんが案内してくれました。日本の茶道や華道、礼儀と言った文化に興味を持ち日本語を大学で4年間学んだと言う張さん。年齢を聞くのを忘れましたが、まだ初々しさが残る可愛らしい女性でした。龍門石窟は伊河と言う黄河の支流の東西両岸の山に作られたもので張さんは西側に1.3キロほど続く石窟群の中から主なものを紹介してくれました。
親孝行の証 賓陽三洞
東を向いていることから太陽を迎賓するという意味で、北、中、南の3つを合わせて賓陽三洞の名前が付いています。北魏の7代皇帝世宗・宣武帝が、父である6代皇帝高祖・孝文帝のために造られたということです。80万人ほどの人が24年の歳月を費やしたものの中洞しか完成せずに、北と南はそれから100年以上も後の唐の時代に完成したそうです。とにかく観光客が多くて、私が見たのは中洞と南洞。どちらも優しい笑顔ですが特に中洞の微笑み具合は「ニッコリ」と言う言葉がびったり。6代皇帝高祖は優しいお父さんだったんでしょうか。
庶民も石窟を刻んだ
石窟と言うと見上げるようなものを想像してしまいますが、窓くらいの大きさの洞や山肌に直接、塔などを刻んだものもあります。これは、お金持ちや身分のある人ではなく庶民が自分や家族の平安を祈って、自ら彫ったものなんだそうです。全体の20%はこれに属します。庶民まで石窟を造るということは、北魏の時代、それだけ仏教が盛んだったということの1つの表れのようです。
龍門石窟の牡丹
今回の取材のテーマは「牡丹紀行」。ここにもありました、牡丹が。しかも花ではなくて、石です。
人だかりがしていて次から次へと記念撮影されているのは牡丹石。よく見ると黒い石に牡丹の花が一面に散っているよう。描いたの?と思うほど、可愛らしい牡丹の花ですが、すべて天然なんだそうです。牡丹石は三蔵法師の故郷、えんしでしか採れない上にこんなに大きいものは大変珍しく貴重。
さっぱり気分に 蓮花洞
2000を超える洞がある訳だから、形も大きさも様々。中でも面白いなと思ったのは、この蓮花洞。
天井に大きな蓮の花が下を向いて咲いていて、なんだか中の仏像たちがシャワーを浴びているようにも見えてしまいます。花が上を向いているものはよくあるけれど、下向きは初めて見ました。これを造った人は、どんな気持ちで花を下向きにしたんだろうか。そして、この洞のもう1つの見どころは最小の仏像が刻まれていること。ガイドの張さんに、「仏像の首の右側にありますよ」と言われ、探してみたものの見つからない。肉眼は諦めてカメラの望遠レンズで寄ってみると、見えました。これです。
小さな仏像が方眼用紙のように並んでいます。遠くから見ると字のようにしか見えませんが、1つ1つ、いえ1粒1粒は2センチの仏像。
知名度NO1 盧舎那大仏
どの観光地にもそこを代表するようなシンボリックな景色や物がありますが、龍門石窟といったら必ず登場するのが盧舎那大仏。大きさもここでは最大で高さは17メートルを超えます。なんと耳だけでも2メートル。私の身長より長いんです。ガイドの張さんに、「則天武后がモデルなんですよね」と言ったら、きっぱりと「伝説です」と言われてしまいました。じっと見てみると端正な顔立ち、衣のひだまでが刻れていて大きさが最大でなくても人気NO1にはなれそうです。ちなみに張さんは、奈良東大寺の大仏に似ていると言っていました。
人気NO1の記念撮影スポットでしたので、私たちも1枚。
張さんがガイドするのはここまで。日本人のお客さんは最近少ないけど、日本人は優しくて笑顔がきれいと言ってくれました。日本語を使う機会も減ってしまって、レベルが落ちているようだと心配していたけど、日本人客が増えて忙しすぎるという悩みに変わる日が早く来るといいねと心でつぶやき別れました。
北魏の書 古陽洞
400余年を超えて造営が続いた龍門石窟の中で最も古く、他とは一線を画した感じの洞。何故かここだけ、白いハトが洞内の仏像の頭や膝にちょこんと止まったりしています。
その他の特徴は、その主役が仏像ではなく文字であることです。覗き込んでみると書かれている文字も見えますが、湾曲していたり暗かったりで何が書いてあるのかまでは判別できませんでした。
でも、この西側の石窟の南側の出口にはこの洞の中に書かれている文字のレプリカが展示されていました。北魏の書の作品として芸術価値も高いと言います。なるほど、どれもきれいな字でした。字の美しさに感激するだけでなく内容はほとんど家族の供養や祈願と言ったもので、心温まる感じがします。
私がこの龍門石窟を訪れるのは1994年以来、2回目。当時は、今ほどは観光客も多くなく、歩道や階段や柵も整備されていなかった。いろんな石窟にもっと近くまで行けたり、中には洞の中に入れるものも。世界遺産にもなったし、保護や安全の観点すると今の方がいいと思う。何十年ぶりかに中国の観光地を訪れるとあまりに開発が進みすぎて、便利を通り越して、寂しさを感じることもあるけれど、龍門石窟は違った。むしろ、見学を終えるとほのぼのとした気持ちになった。春爛漫、やさしい風が新緑の柳を揺らしているからか、いや石窟の造営目的が権力者や豊かな者だけでなく庶民までが家族の供養や祈願、平安を祈ったものだということを知ったからかもしれない。(keiko&sui)
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