小川の水がぬるみ、つくしが芽を出し、すみれが、かわいい姿を見せます。生命感に溢れる明るい春は、実に嬉しい季節です。そして、「春」と言うと、皆がいいことばかり思い出しがちです。しかし、私の印象に深く残っている春は、あまりいい思い出とはいえません。高校三年生の春のことでした……
私は子供の時から文学が好きで、人間について考えたり、人生を思ったりすることが好きでした。しかし高校の時、理学を選択せざるを得なくて、毎日、いつもつまらない思いを抱きながら、くさくさした感じを持っていました。
高校三年生の春はちょうど受験勉強が一番忙しかった時でした。 当時の私は数字や記号に何の興味も持つことができず、人生を薄暗く、前途を険しく感じていました。気分が沈んだ時、私はいつも親友の姚さんと一緒に校舎の裏に回って、誰もいない庭を散歩しました。
理学に興味はなかったけれど、私は勉強は頑張っていました。しかし、ある日の試験で悪い成績を取った時、とうとう我慢の限界を超えてしまいました。私は青白い顔をしたまま、一人で何も言わずに教室の椅子に座っていました。
庭を迎春花や桃の花が、黄に赤に美しく彩るようになりました。庭はすでに春たけなわでしたが、私はその美しい景色を全然見る気になりませんでした。自然界には春が来ましたが、私の人生の春は一体どこにあるのでしょうか。
ところが、そんな私を見て、姚さんは私を庭に連れ出そうとしました。私は何もしたくない気分でしたが、それでもやっと彼女に同意して庭に出ました。
教室の外は少しばかりの風が吹いて、木の葉が揺れ、その隙間から木漏れ日が芝生に落ちていました。私は光で斑になった芝生を、何か切ないような気持ちでぼんやりと見つめていました。
「ねえ、理学を選んだことを後悔しているの?」
私の背後から姚さんの声が聞こえました。
「うーん、後悔しているかどうかわからないけど、時々、息苦しくなるの。数字や記号ばかりで人間らしさが感じられないから」
私がそう答えると、彼女は
「あなた泣いているの?」とちょっと嗄れた声で聞きました。
「泣いてなんかいるもんですか!」
私は少し声を震わせながら、それでも前よりもずっと落ち着いた声で答えました。
そして、姚さんが深いため息を洩らすのを耳にしました。
春の庭の中には様々な花が咲き乱れている植え込みがありました。その茂みの中には黄色や白、赤などの蕾が今にも咲き出しそうになっていました。そして、その中のいくつかは蕾のまま、地面に落ちていました。
「なんだか可哀想だね」
私がそう言うと姚さんは、
「何が?」と聞き返しました。
「だって花なのに、咲かないうちに地面に落ちてしまうんだもの」
私は、今この瞬間を失いたくないという気持ちで、地面に落ちた蕾をじっと見つめていました。
今思い出しても、あの時はまるで夢の中にいたようでした。
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