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菜の花がなくなった春 【上海外国語大学 周羽蕎】

2013-09-30 11:11:12     cri    

 4月になると、学院の前に立っている桜がようやく満開になってきた。枝がゆらゆらと揺れ、そよ風が吹く。裸の枝についたピンクの雪が、ぽかぽかと温かい春の日差しをいっぱいに浴びている。まるで夢みたいな絶景だ。それを見ていたら、故郷にある真っ黄色に染まった絨毯畑が思い出された。そう、菜の花だ。桜より、菜の花は美しいとは言えないし、可愛いとも思わないけど、なんだかその輝いて生きている姿に感動させられた。

 わたしが生まれ育った地――浙江省にある小さな町なのだが、そこを出たのは15歳の時のことだから、もう五年になる。子供の時、毎日学校が終わったら仲間と集まっては、暗くなるまで畦で遊んでいた。春ともなると、菜の花が咲き乱れ、黄色の海に浸ったようだった。「春の色といえば何色か?」とあの時のわたしに聞いたら、黄色と答えるかもしれない。あの時のわたしにとって、菜の花は当たり前の存在だったが、いつの間にかもうわたしの生活の中からなくなっていた。

 中学に入ってから、大都市に憧れるようになった。つまらない田舎より賑やかな都市はずっとおもしろいから、早く大人になって、ここを出て大都市へ行きたいと思った。菜の花、すなわち田舎のシンボルも嫌いになった。ある日、友達と一緒に自転車で畦を抜けていたところ、「うちの先生、今回、へんな宿題を出したんだ。胸の中にある菜の花という題、作文を書くなんて笑えるよね」と友達が言った。「へえ、なんかそれ、地味すぎるじゃない。」二人とも吹き出して、その笑い声が黄色の海に散っていった。その後、地方都市の高校へ行き、町には一度も帰らなかった。

 二年前、願いがかない、上海に来た。賑やかは賑やかだが、春になっても、何か足りないと感じた。美しい風景がたくさんあるのに。ボランティア活動のため、ときどき郊外へ行くことがある。ある日、その馴染みの黄色が目についた瞬間に分かった。その田舎の地味さ、その子供時代の単純さ、その簡単な幸せこそ一番尊いのだ。

 今年の春、五年ぶりにその故郷を訪れる機会に恵まれた。急いで昔の畑に行ってみたが、残念なことに見つからなかった。全部洋館になってしまったからだ。もちろん菜の花も、友達も、子供時代も去っていた。大好きだった都市を代表する洋館は意外にも醜く映っていた。

 故郷も発展しなければならないということに異論はないが、わたしは言いようのない寂しさと、何とも割り切れない気持ちを感じるばかりだった。

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