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静かな夜、何日間もしくしく降り続く春雨、そこに目で耳で肌で感じられる春の雰囲気が宿っている。これが4月ごろの広州だ。…
午後二時、花信風が吹いて、カーテンが閃いています。
「昂ちゃん、ちょっとちょっと。」椅子に座っているおばあちゃんが手を振りながら、私をニックネームで呼びました。
「なーに」おばあちゃんのそばに座ったら、おばあちゃんが針を一本手にしていることに気が付きました。
「ちょっと針に糸を通してくれない?あのね、昂ちゃんのスポーツウェアのポケットが綻びているのよ、ちょっと縫ってあげようと思ってね。」
おばあちゃんは何かを探しているようで、突然慌て始めました。「あら、老眼鏡、老眼鏡、どこに置いてあるのかな。」
思わず噴き出しました。「おばあちゃん、老眼鏡は鼻の上に掛かってるじゃないか。ずり落ちただけだよ」
「あっ、そうかしら。忘れっぽくなったね。さあ、早く。糸を通しておくれ。あら、スポーツウェアは?さっきここに置いてあったのに。」おばあちゃんは慌てて探しながら、ぶつぶつとつぶやきました。「明日も体育の授業があるでしょ。昂ちゃんは三年生だっけ?担任の黎先生は怒りっぽい人だよね。しまったなあ、スポーツウェアがないと、先生に叱られるよ。どうすればいいのかな。昂ちゃん、ごめんね。」
おばあちゃんの泣き出しそうな声に私は涙ぐみました。
「大丈夫、おばあちゃん。」私は言いながら、洋服だんすから古いスポーツウェアを持ち出して、おばあちゃんの前に置きました。「おばあちゃん、あるよ、このスポーツウェアを縫って。じゃ、針に糸を通すね。」
やっとおばあちゃんの顔にかすかな笑みが浮かんできました。涙を堪えて針に糸を通しました。おばあちゃん、忘れちゃったの?私はもう高校生になりましたよ。三年生の時にスポーツウェアの袋を縫ってくれてありがとうございます。アルツハイマー病になっても、こんなことも覚えていてくれて本当にありがとうございます。
「あっ、もう二時になったよ。授業に遅れるよ。昂ちゃんを学校へ送りましょう。早く。」おばあちゃんは突然立ち上がると、傘を手に取って、急き立てました。
「はーい」私はおばあちゃんと手を繋いで、家を出ました。
春雨はしとしとふっています。
「あら、おばあちゃん、眼鏡が雨にぬれたよ。拭いてあげる。」しかし、ちょうどこのとき、始業のベルが聴こえてきました。
目を覚ますと、目覚まし時計のアラームが耳に入ってきました。また夢でした。おばあちゃんが亡くなってもう五年になった今もよく見る夢です。
ベッドから起き上がって、窓の前に来て、どことなく外を眺めました。頭を上げると、空を流れていく雲が目に入ってきました。小糠雨の空でした。春もたけなわになってきたね。目がかすんではっきり見えなくなりました。もしかして、私の眼鏡もおばあちゃんのと同じように雨にぬれたのかな。
何もしてあげられなかったのに、いつも見守ってくれたおばあちゃん、もう一度、春雨にぬれた老眼鏡を拭いてあげたい。
…一場の春の夢に過ぎないが、その濡れメガネ、心にいつもいるおばあちゃんは決して一場の春の夢ではない。…
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