中国には、漢字4文字で奥深い意味を表す四字熟語が数多くあります。今日は、多くの中国人に愛され、座右の銘によく取り上げられるものをご紹介します。
座右の銘とは、常に自分の心に留めておき、戒めや励ましとする言葉なんですが、字熟語には、座右の銘にしたいなあって思われるものが多いですね。中国では、よく自分の好きな四字熟語を書にして、部屋に飾ります。今日は、中国でよく書にされ、部屋に飾られるものを二三ご紹介しましょう。「淡泊明志(たんぱくめいし)」、「有容乃大(ゆうようだいだい)」と「居安思危(こあんしき)」です。
淡泊明志
この言葉は、一番最初に、前漢の劉安が編纂した本、「淮南子」に出ました。でも、一番有名なのは、三国志で有名な諸葛孔明が54歳の時に、まだ8歳の息子への手紙、「わが子を戒める書」に書いたことです。
原文は、"非淡泊无以明志,非宁静无以致远。"と言います。「私利私欲に溺れることなく淡泊でなければ、志を明らかにすることができない。落ち着いてゆったりした気持ちでないと、遠大な境地に達することができない」となっています。目先の利益や欲望、感情に左右されることなく、志を明らかにし、落ち着いて、本来の成すべき事を地道に進めていくということです。
有容乃大
この言葉は、一番最初に、四書五経の一つに数えられる「尚書」から出ました。"有容、徳乃大"。「受け入れてこそ、徳がどんどん大きくなる」と書かれています。
初めて、「有容乃大」という四字熟語の形にしたのは、明の時代の兵部尚書、これは、今の国防大臣に当たる官職ですが、明の時代の国防大臣を務めていた、袁可立という人です。彼は、自分を励ますため、"受益惟謙、有容乃大"という対聯を書き上げました。謙虚な態度と大きな懐を持たなければならないと、自分を戒めているわけです。
そして、一番よく知られるのは、"海納百川、有容乃大"という使い方です。海は無数の川を受け入れるからこそ、あれだけの大きさを持っているという意味です。これは清の時代の政治家、アヘン戦争の英雄、林則徐(りんそくじょ)が座右の銘にしていました。
海は、「この川の水は受け入れるが、あの川の水はいやだ」などと、えり好みせず、すべての川の水を受け入れるのです。だから、そのように広大な海になりました。
海は、選り好みをしない、低姿勢ですね。場所も最も低い所にあるので、自分に流れてくるすべての川の水を受け入れています。非常に寛大な精神を持っているわけです。
もし、海が受け入れることを拒否したりすれば、川の水は行き場を失い、氾濫してしまうことになります。また、海も選り好みするなら、あれほど大きくなれですものね。
「有容乃大」、すべてを受け入れるという寛大な精神を持つという意味合いから、座右の銘として、会社の社長とか、大きな機構のリーダーにふさわしいと思います。多くのスタッフの気持ちを受け入れて、一緒に成長していくということですね。
居安思危
安にいて危を思う、平安無事の時でも、危機の事を考えている。常に用心を怠らないことを表します。
住居の居なんですが、四字熟語の場合、なぜか「きょ」ではなくて、「こ」と読みます。コアンシキです。
これと似たような意味の言葉ですが、「備えあれば患いなし」という諺がありますね。
実は、この二つはいずれも、「春秋左氏伝」から来ています。原文は、「居安思危、思則有備、有備無患」。読み下しは、「安きにおいて危うきを思い、思えばすなわち備えあり、備えあれば患いなし」となっています。
危険が迫ってくる時には誰でも用心するし、危機感を持ちます。けれども、そうではない時、安泰な時にも常に危機感を持ち、危険に備えることが大切ですよね。つまり、そうじゃなれば、いざ備えを怠ると、危機に陥ってしまう可能性が大ですね。自然災害に限らず、世の中のすべてのことに当てはまります。
「居安思危」について、こんな故事があります。
中国史上最高の名君の一人と称えられる唐太宗は、自らに対する諫言を奨励し、常に自らを厳しく律するように勤めていました。
側近の大臣に、このように話したことがあります。「国を治めることは、病気を治すのと同じだ。完治しても、十分に養生し、ゆっくり休まなければならない。もし、すぐに自らを放任すれば、持病が再発し、今度は救いようがなくなってしまう。今、わが国は平和で安定しており、周りの少数民族は降伏している。これは、昔から珍しいことだ。しかし、私はこのような情況が長く維持できないことを心配し、日に日に用心するようになった。だから、あなたたちの諫言をいっぱい聞かせて欲しい」と語りました。
率直な諫言をすることで有名な魏徴(ぎちょう)は、「国内外が安定していることは、取り立てて喜ぶことではないと思います。陛下が"居安思危"安きにおいて危うきを思うことに大変うれしく存じます」と言いました。
「居安思危」、これは中国でよく知られる四字熟語ですが、「備えあれば患いなし」と合わせて覚えていただければと思います。
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