「誰一人取り残さない」社会に向けた北京の取り組み ~秋田典子教授に聞く~
北京市が過去6年にわたり市民の悩み事に速やかに対応してきた取り組みに焦点を当て、都市ガバナンスで直面する共通の課題を世界各国の代表と議論する、2024北京「市民相談への即時対応」改革フォーラムが18日と19日の両日にわたり北京市内で開催されました。
同フォーラムには40の国と地域からのゲストの170人も含め、700人が出席しました。「人間第一の都市ガバナンスの現代化」をテーマに、北京市の取り組みだけでなく、世界各国の都市における対応策も紹介されました。
フォーラムでの発表によれば、北京市では2019年から、市民向けホットラインの「12345」などを通じての相談は累計1億5000万件に上り、問題の解決率と満足率はいずれも97%に達したとのことです。
北京が都市管理の改善に向けて行なった取り組みをめぐり、日本から出席した千葉大学教授で、日本都市計画学会常務理事、日本建築学会理事を務める秋田典子氏にお話を聞きました。

――今回のフォーラムでは、北京の市民向けホットライン「12345」の取り組みが紹介されました。北京市による市民の悩み事を受け、すぐに対応することを心がけているやり方は、秋田教授の目には、どのように映りましたか。
まさに迅速、スピーディということが、中国や北京の特徴だと思います。
今日の分科会の発表の中で、特に私が興味深いと思ったのが通勤問題の解消です。市民の声を聞いて、大都市圏で通勤用の新しいシャトルバスの路線を新設した話ですが、日本もメガシティでは、遠距離通勤者が多く、通勤問題は日本の大都市圏にとってもとても深刻な問題です。北京で取り組まれている解決方法には、共有できる部分があると思いますし、課題を12345ホットラインを通じて見出し、具体的な解決策を採用していることは素晴らしいと思います。
北京市12345市民ホットライン通話サービスホール(写真:視覚中国)
――ところで、秋田教授はどのような気持ちで、フォーラム参加の招きを受けられましたか。
私は研究者として、中国の大学に行って、都市政策やランドスケープの実践について意見を交換したことはありましたが、このように自治体(地方政府)の政策の現場に関わる方々の想いを直接伺う機会は殆どありませんでした。今回のフォーラムでは、政策の実践に関わっている方々がどんな思いを持っているのかということを知ることができる、非常に貴重な機会だったと思います。
北京市の皆さんが、熱い思いを持って、12345ホットラインを通じて国連でいう「誰1人取り残さない」ことを実践しようとしているのは、とても中国らしい、北京らしいやり方だと感じました。手段やプロセスは違いますが、中国でも日本でも目指している方向は同じだと思いました。
“市民相談への即時対応”のサポートで旧市街地の美化プロジェクトや、住民の合議制が進む北京市草廠胡同コミュニティー
――今回のフォーラムが掲げている「人間第一」の理念について、どのように受け止められますか。
私の発表の中でも述べましたが、日本も2019年からウォーカブルポリシー、つまり「歩いて楽しい街づくり政策」を取り入れています。その中心になる考え方が、「人中心の街づくり」です。世界全体で、人中心の、楽しく、美しく、幸せな街づくりに取り組もうとしていることに、非常に感銘を受けました。
これだけ大きな人口を抱えている国の首都で、人中心のまちづくりの取り組みをすることは、中国全体にとても大きな影響力があると思いますし、それは私たちが目指しているものと同じ未来の街の姿だと思います。
2024北京「市民相談への即時対応」改革フォーラムで発表する秋田典子教授
――北京市では、12345ホットラインで蓄積したビッグデータに基づいて、問題を未然に防止する方へと切り替わりつつあります。日本ではどのようなやり方でしょうか。
今は人々のライフスタイルがどんどん変わっていくし、デジタルで出来ることも日々変化しています。例えば、日本では少子高齢化や社会の急激な変化で長期的な将来が見通せないという前提に立ち、都市計画もプランニングからビジョンへと変わってきています。今回のように「人間第一で美しく、快適で、幸せな街がいいですよね」というビジョンを共有することで、具体的なプランニングにフレキシビリティを持たせることが可能になります。
社会変化は、単純な高齢化だけではありません。1人世帯の急激な増加もあります。こうしたライフスタイルの変化は都市構造を変えてきていると感じています。
高齢化、人口減少の局面では、投資できる資源が限られている中で、どんな戦略が最も効果的かということを考えなくてはなりません。そこで重要なのは、やはり事前予防です。資源の有効活用にもなり、持続性にも繋がります。私の発表の中で話したウォーカブルシティー、歩ける街づくりには、健康づくりという目的もあります。病気になることを事前に予防することは個人のQOLにおいてもとても大事ですが、社会的コストを下げるためにも重要です。また、コンパクトシティ政策では、災害のリスクのあるエリアに住む人に、できるだけ安全な場所に引っ越していただくという政策も含まれています。これも、災害が起こる前の予防です。都市ガバナンスにおいて重要なことは予防だと私も思っています。
――国連は2050年までに世界人口の70%が都市に住むという予測を出しています。秋田教授は未来を見据えた都市ガバナンスにおいて、とりわけ重視すべきことは何だと見られていますか。
フォーラムで言及された方もいますが、「ウェルビーイング(Well-being、心身ともに満たされた状態)」ということが大事だと、私も思っています。一人ひとりが個性や能力を発揮できる場をどう提供できるか、ということが我々の役割だと考えています。
――中国と日本、メガシティーのガバナンスで学び合える関係にあるとお考えですか。
もちろんです。中国と日本の学び合いによって生み出されるイノベーションがあれば、素晴らしいと思います。日本では特に大都市圏が、これから大きく変化することが予想されています。将来、リニア新幹線ができると、日本の三大都市圏が一つになり、もしかすると北京より大きいメガレガシティが出来るかも知れません。そこでは、現在、北京市が取り組まれているような、多様な広域連携や、地域の単位の再構築という部分で、互いに勉強できるところが出てくると思います。
北京ではさまざまな先進的な取り組みがされていることを今回知り、非常に勉強になりました。国や方法は違っても、進もうと思っている方向は同じだということに共感しましたし、日本に帰った後も、様々な場で、北京市の取り組みについて話題提供をしていきたいと思います。
(聞き手&構成:王小燕、校正:鈴木)
【プロフィール】
秋田典子(あきた のりこ)さん
千葉大学大学院園芸学研究院教授
ランドスケープ・マネジメント、環境ガバナンス、レジリエント・ランドスケープ、都市農業、地域資源、景観や地域の歴史文化、住民参加、エンパワーメントなどをテーマに研究に取り組む
日本都市計画学会、日本造園学会、日本建築学会理事なども務める
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4月3日ニュース
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