北京
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23/19
「東アジアの歴史と未来志向の平和教育」をめぐる交流会が3日、リモートで開かれました。「第10回中日韓平和教材実践交流会」と題したこの会議は、三か国の教職員組合や教育研究団体の関係者、小中高等学校の歴史教員らが北京、南京、東京、北海道、福岡、ソウルなどから約40人が参加しました。
交流会では、中国の中学・高校歴史教科書における日本軍による中国侵略の歴史に関する授業内容、韓国における教育環境改善の活動と平和統一教育、日本における新自由主義的歴史修正主義の拡散、重層的な被差別問題などをめぐり、発表と活発な議論が行われました。
交流会で明らかにされた東アジアの平和教育の現状、そして、三か国の小中高歴史教育の最前線で起きた動きを2回にわたって抜粋して紹介します。
第10回中日韓平和教材実践交流会・北京会場の様子
◆加害と被害の歴史を明確に アジア視点の戦争記憶の継承を
交流会は午前と午後の部に分かれて開催され、様々な議題をめぐり、活発な意見交換が行われました。
中でも、日本軍の慰安婦制度を「商行為」だと主張した論文の発表で、国際的に批判を巻き起こしたハーバード大学のラムザイヤー教授の問題(日本東京・善元幸夫氏)、戦争で命を落とした兵士や遺族が残した手紙を授業に生かした教育実践(中国北京・段明艶氏)、「少数派」と共生する社会の構築に向けた実践(中国南京・盧元偉氏)、ベトナム戦争中の韓国軍による民間人虐殺という、加害の歴史を裁く高校生模擬法廷の開催(韓国・金珉廷氏)、体験者のオーラルヒストリーを取り入れた平和劇作りの取り組み(日本福岡・酒見加香子氏、相戸力氏)などの内容がディスカッションの焦点になりました。
発表者が使う言語以外の2か国語に同時翻訳された発表資料
東京学芸大学兼任講師の善元幸夫さんは、東アジアの視点で戦争の伝承・継承の意義を強調し、「子どもたちが戦争の被害だけでなく、加害の歴史、さらには日本国内の被差別の歴史を学び継承していく」必要を訴えました。
交流会で発表中の東京学芸大学専任講師・善元幸夫さん
「ラムザイヤー問題」について、善元さんは、同氏は物議をかもした論文「太平洋戦争の性契約」だけでなく、日本の被差別部落や沖縄、在日コリアンを取り上げた論文は、「日本に対し偏見に基づく差別的な内容に満ちている」と指摘する一方で、日本政府による旭日中綬章の授与歴がある同氏の考え方が、「政府中枢まで異常な影響を受けることを危惧している」とも話しました。
善元さんはまた、戦争の歴史を語る時に、「立体的で、重層的に」絡む差別の問題も丁寧に分析し、「あらゆる差別を子どもたちと共に考え、差別を許さない、差別と闘う」という基本理念を持つ人権尊重、他者に考えを強要しない「多文化共生」の思想を教育で貫くよう訴えました。また、コロナ時代を切り抜ける途上にあって、「一人ひとりが利他主義者を目指ざし、多様性を認める」よう呼びかけ、「世界は同じ空気でつながっている。今こそ様々な知恵を出し、多様な教育を作り出すことができる」とし、東アジアの教員が結束し、教育内容で連携するよう訴えました。
善元さんの問題提起に対して中国の参加者からも呼応があり、南京師範大学附属中学(高校部)の歴史教員・盧元偉さんは自身の学校や教え子の日常行動に起きた実例を取り上げ、少数派との向き合い方を生徒と共に討論し、人間中心の「いのちの教育」こそ、平和教育の核心だと実践の手ごたえを話しました。
リモート方式で開催された第10回中日韓平和教材実践交流会
◆南京の教育現場:歴史の継承から世界を舞台にした活躍へ
「南京大虐殺は20世紀最大の嘘―これは日本の右翼の主張です。あなたはこれについてどう思いますか。そして、理由は?」
南京師範大学附属中学高校部で教鞭をとる盧元偉さんが、大虐殺の歴史を教える時に、生徒たちに投げかけた質問でした。一方的な教えこみよりも、生徒が一緒になって考える授業を盧さんは重視しています。
討論学習の結果、「この主張は正しくないと思う。何故ならば、生存者の証言、加害者の証言、そして、当時南京に滞在していた第三国の関係者の証言や記録により大虐殺を裏付けることができるからだ」という理路整然とした発表が聞けたと話しました。
発言中の南京師範大学附属中学(高校部)歴史教員・盧元偉さん
盧さんの学校では、歴史教育の選択科目には、「中日韓の注目される話題」、「国際関係:戦争と平和について考える」などが設けられています。その狙いは、「生徒の心に平和の種を蒔く」、「歴史を知る」ことから「理解する」、さらに「和解する」へと進めるにはどうすれば良いのかを、一緒に考えることだそうです。
南京師範大学附属中学で行われた日本、韓国の高校生との交流活動(盧元偉さんの発表資料から)
盧さんは席上、学校の作文コンクールで優勝した教え子の作文の一部を紹介しました。こう綴られています。
「私たちは日本軍の暴行に憤りを覚えると同時に、次のような視点から考えることをしないでしょうか。それはつまり、日本軍兵士をそのような凄惨を極め、非人道的な行為に走らせた原因は何か。……一人一人が歴史の力を借りて、人格を磨き続け、ドイツの哲学者、思想家であるハンナ・アーレントがいう、誰もがしうる“凡庸な悪”から抜け出し、自分の行動を冷静に見つめる。それができてこそ、初めて真の意味での“歴史を鑑にし”、歴史の繰り返しから抜け出すことが可能ではないでしょうか」
交流会では、盧さんは一本のショートフィルムを流しました。2017年、世界の若手クリエイター向けのJCSIヤング・クリエーティブ賞“女性平和使者”部門の最高賞を射止めたショートフィルムで、タイトルは「金陵止戈人(The Peacemaker from Nanking)」。
ショートフィルム「金陵止戈人」駱翼雲監督
「監督はわが学校の卒業生の駱翼雲です」と盧さんは鼻が高い。
フィルムでは、夏休みを利用して、中東へボランティアに出かける中国人女子大生と祖母の会話が紹介され、第二次世界大戦の中、虐殺が始まった南京にとどまり、1万人以上の中国人女性を保護した米国人女性教師、ミニー・ヴォートリン(Minnie Vautrin)への敬意も語られています。
ミニー・ヴォートリン氏(1886~1941)
盧さんによりますと、駱監督は受賞に際し、「このフィルムは、中国人が世界に向かって歴史を語り、平和への憧れを伝えるための小さな一歩に過ぎない。これからは、歴史を伝承しながらも、その痛みから一歩踏み出し、世界を舞台に、積極的な姿勢で国際問題にかかわっていく中国の若者が増え続けるだろう」と思いを打ち明けたそうです。
小中高の学校歴史教育で、平和の種を蒔き、「いのちの教育」を貫き通してきたからこそ、駱監督のような若者が南京から世界の舞台に出た、と盧さんは歴史教員としてのやりがいを感じたと話しました。
(取材&記事:王小燕)
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