中日の法律交流 相互学習に意義ある ~JICA長期専門家・白出博之さんに聞く(下)

2021-04-13 13:39  CRI

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 弁護士で、日本国際協力機構(JICA)の中国駐在長期専門家の白出博之さんに引き続きお話を伺います。シリーズ3回目のテーマは中日両国の法律交流についてです。白出さんの紹介によれば、2014年6月から2021年3月まで、JICAの「市場経済の健全な発展と民生の保障のための法制度整備プロジェクト」の下で、中国からの訪日研修には延べ390名以上、中国で開かれたセミナーに日本からは延べ200名以上、中国国内からは延べ100名が参加したそうです。

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白出博之さん(2021年3月10日、王小燕撮影)

◆中日の法律交流 改革開放の歩みとともに展開される

――JICAが関わっている日本サイドと「全人代法制工作委員会」とのこれまでの交流事業の概要について教えてください。

白出 日本の中国政府に対する法整備支援は、中国の改革開放を支援する事業として開始されたものですが、いくつかの段階に分かれます。

 まず当初は2004年の中国商務部に対する『経済法・企業法整備プロジェクト』から開始されました。具体的には、会社法(2005年10月改正)、証券法(2005年10月改正)、企業破産法(2006年8月制定)、独占禁止法(2007年8月制定)などの法律です。

 いずれも経済法、企業法分野が主な内容であり、中国の改革開放支援と結びつけて理解しやすいと思います。

 次に中国で喫緊の課題とされていた刑事、民事、行政裁判の手続きに関する3つの訴訟法の改正、特にその中でも、2010年からのプロジェクトでは、民事訴訟法の改正に取り組んで、いわゆる現代型訴訟への対応や、不特定多数に対する権利・利益の侵害(具体的には環境資源保護、多数消費者の大規模な被害等ですが)、これに対応する新しい制度としての公益訴訟制度の研究等が重要課題でした。

 これを抽象的にいえば、人民の合法的権益保護のための司法アクセスの権利、法に基づく裁判を受ける権利をいかに実質的に保障するかという課題といえます。

 2012年から、まず「民が官を訴える」という行政裁判に関する行政訴訟法(2014年11月改正)に取り組みました。

 続いて環境保護法(2014年4月改正)、大気汚染防治法(2015年8月改正)、食品安全法(2015年4月改正)等の改正作業に取り組みました。いずれも人民の生活に直結する重要な課題ですので、これらの法律の改正法については「史上最も厳格な法律」「牙を持った法律」として報道され、多くの注目を集めるものになりました。

 2014年6月から現在まで継続している『市場経済の健全な発展及び民生の保障のための法制度整備プロジェクト』では、「法を管理する法」と称される立法法(2015年3月改正)、サイバーセキュリティ法(2016年11月制定)、民法典編纂の第一段階としての民法総則(2017年3月制定)、証券法(2019年12月改正)、民法典(2020年5月制定)、専利法(2020年10月改正)等の改正・起草の研究を行いました。

 なお現在のプロジェクトは、当初の計画では2017年6月末が期限でした。その時点では、民法典編纂の第一段階である民法総則は成立していましたが、第二段階の各分編起草作業は未完成でした。また国際社会からも注目を集めていた中国専利法の改正作業も終わっていませんでした。そこで、これらの重点課題に対応するために、プロジェクト期間が延長されて現在に至っています。

――民法典の編纂を例に、日本側の専門家との交流で、特にフォーカスしていた分野にどういった内容がありましたか。

白出 民法典編纂との関係で中国側から提起された研究テーマは多数ありますが、主なものをあげると、①訴訟時効期間の見直し、②意思表示、法律行為論、③後見制度、④日本の債権法改正、及び相続法改正関連の諸論点、⑤夫婦財産制と日常家事債務、⑥離婚における財産分与等、⑦生態環境被害の救済等です。

 特に印象的であったのは、訴訟時効(消滅時効)制度の見直し、日本の債権法・相続法改正関連の諸論点については、日本でも120年ぶりの大規模な改正作業が行われたホットイシューでしたので、訪日研修の際には、かなり突っ込んだ議論を、時間をかけて、日本の法務省、大学、弁護士会等との間で視点を変えて議論が展開されてました。

◆相互学習に意義ある

――JICA派遣の長期専門家として、白出さんは中国の法学者と交流することの意義をどう実感していますか。

白出 交流の意義を一言で言えば、相互学習です。JICAとしては、法整備支援プロジェクトを通じて、日本法の知識、経験を、相手国カウンターパート機関にお伝えし、その立法起草作業に役立てていただくことが主目的ではありますが、プロジェクト活動での研究会や意見交換、新法成立後の成果発表会等を通じて、中国側から日本側が学ぶことは少なくありません。

 例えば中国の法律関係者は,「中国法は大陸法系の伝統を持つ国家である」といいますが、他方で、英米法系国家で発達した懲罰的賠償制度の類似制度が、中国法では民法典その他の法律において大胆に採用されています。前回のインタビューでも触れましたが、「第三編 契約」の体系論も同様です。その意味で、「良いものは良い」ということを合理的に考えて、法体系の違いに拘泥せずに、新たな制度を積極的に採用していくという中国の姿勢は、われわれ日本の法律家も発想を柔軟に変えて学ぶべきであると考えます。

――2019年、白出さんは中国政府が外国人専門家に授与する最高の賞である「中国政府友誼賞」を受賞されました。受賞の理由、そして、賞を受け取った時にお気持ちを聞かせてください。

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2019年9月30日、中国政府友誼賞の授賞式にて(写真提供:JICA中国事務所)

白出 2019年9月30日、人民大会堂において世界31カ国の外国専門家100名に対し、国務院・劉鶴副総理から友誼賞の記念メダルと賞状が授与され、その後に国務院・李克強総理との会見・講話等の記念式典が行われました。これはちょうど中国の建国70周年であると同時に、改革開放40周年の節目の年でもありました。日本人受賞者合計13名、このうち対中ODA関係者が3名であり、例年に比較して受賞者が多かったことは、中日両国の関係改善の反映だけでなく、1979年12月から改革開放支援として実施されてきた日本のODA事業に対する高い評価と感謝を看取することができます。

 「友誼賞」(Friendship Award)は、中国政府が中国の現代化建設と改革開放事業において突出した貢献をした外国専門家を表彰するために設けられた、国家レベルの最高の栄誉賞であるということをお聞きして、私自身、本当に驚き、光栄に感じました。

 そして私の場合は、法整備支援プロジェクトの相手方機関である全国人大法工委から推薦されたことよるものですが、実質的にはこれまでの中国法整備支援プロジェクトの全ての関係者、関係機関に対する評価と感謝を表したものであり、さらには対中ODA終了後の新時代における日中関係に相応しい、法律分野における新たな交流・協力関係の構築に対する期待が込められたものとして受け止めています。今後もその期待に応えられるように、工夫と努力を続けて行きたいと考えています。

(文責:王小燕)

 

【プロフィール】

白出博之(しらで ひろゆき)さん

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 日本の政府開発援助事業(ODA)である法整備支援プロジェクト実施のために、日本国際協力機構(JICA)の長期専門家として、2011年1月から中国北京に派遣。その後、約11年にわたって「橋渡し・調整役」として中日法律交流事業に関わる。
 その仕事ぶりが評価され、2019年に世界31カ国の外国専門家100名の中の一人として、中国政府友誼賞を受賞。2021年3月に日本に本帰国。

【リンク】

比較の視点から読み解く中国の民法典 ~JICA長期専門家・白出博之さんに聞く(上)

比較の視点から読み解く中国の民法典 ~JICA長期専門家・白出博之さんに聞く(中)

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王小燕