中国経済の安定成長に注目
中日の知的交流の強化に期待
――竹中さんが今の中国経済に対して、一番注目しているのは何か。
私は、中国の首脳はマクロ経済運営を非常に上手くやって来られたように思っています。これだけの人口を抱えた経済をこれだけの速さで成長させると、社会に色んな軋みができます。それを上手くまとめながら走り続けるというのは、大変なことだったと思うんですね。
そんな中、中国はリーマンショックの翌年(2009年)にも、なんと9%の成長を遂げました。今後は、成長率を少し低下させて7.5%ぐらいで運営するということですが、それでも相当高い成長が続くわけです。
「成長はすべての矛盾を覆い隠す」という言葉がありますが、成長率が今後更に下がってきた場合に、どうやって社会の矛盾を表面化させないか。その舵取りに注目しています。
もう1つは人口変化の影響です。中国も生産年齢人口の減少がこれから起きてきますが、まだ内陸部に余剰労働を抱えていますので、それが都市部に入ってくることによって、中国は、そこそこの成長を今後十数年、続ける力は私は十分あると思います。
しかし、それでもじわじわというふうにその影響は出てくると思うんですよね。その間に、徐々に成長が下がった時に、さっき言った矛盾が表面化しないのかと、それをどのように今度は経済運営で補っていくのか、というのが一番注目されるところですね。
――中国が安定成長できるかどうかを一番注目しているようですが、それができるかどうか、日本にも影響を及ぼすというお考えですね。
もちろんそうです。中国の影響力は極めて大きいです。これは日本だけではなく、アメリカ経済にも、ヨーロッパ経済にも影響をあたえるほど中国の存在感というのは今や大きくなっています。
2000年頃からの十数年を振り返ると、ITバブルが崩壊し、リーマンショックがあり、色んなことを世界経済が経験しましたけれども、実は、気がついてみると一種の安全地帯、ここに行けば安全で安心だというセーフハーバーがあったんですね。それが中国経済でした。
日本の企業からみると、中国に輸出しているからには安心だと、中国に投資している限りはなんとかなる。ところが、そのセーフハーバーが段々かつてほど安全でなくなってきている。そういう認識を日本もアメリカも持ち始めているわけですね。
その意味では、やはり中国には本当に頑張って経済成長を続けてもらいたいし、社会の矛盾を上手く解決していただきたいと思います。
――中国は、今年の経済成長率を7.5%に引き下げると発表しました。
長期的な発展の為に必要な調整だと思います。例えば資産価格の上昇、地価、不動産価格の上昇、または賃金を含むインフレ、これをやはり抑えないと、逆に中期的な発展力が削(そ)がれるわけですから。
中期的な発展力を確保するためにも、経済が加熱しないように、当面の経済成長率を、従来よりやや低めに保つというのは、マクロマネージメントとしては正しいやり方だと私は思います。
――中国はいわゆる「中所得国の罠」に陥らないために、特に気を使うべき点は何だと見ていますか。
経済成長の要因を考えると、資本、労働、そして技術が挙げられます。
日本は2桁の成長を続けていた時に、そのうちの約6割が技術進歩でした。それに対して、中国経済はどちらかというと、沢山インプットしている上に成り立っているところがあります。インプットがあんまり増えなくても、アウトプットが増えるためには、技術が大事です。
一部のアメリカのエコノミニストは、中国の技術進歩率は非常に低いと指摘しましたが、それがそうではないということが最近分かってきたわけですね。
中国も経済成長の半分近くは、技術進歩が占めていて、科学技術者の数も研究開発費も増えています。そういう意味では、成熟した成長パターンに中国も次第になってきているのだと思います。「中進国の罠」に引っかからずに済むには、結局はこの技術進歩率のアップに突きます。
ただ、技術進歩の2つの要素は、教育を含めた研究開発投資に競争です。中国は、例えば国が全面的にバックアップして、ないしは国営企業を全面的に押し出して、それで高い成長を遂げてきたわけですけれども、そのパターンを民間の企業が競争しながら成長をしていくというのに上手く変えていかなくてはいけないわけですよね。それはなかなか大きな仕事ですが、ぜひ上手くやっていただきたいです。
――今年は中日国交正常化40周年ですが、理想的な中日関係に寄せる思いは?
日中両国が長期的に健全な関係発展を遂げていくためには、いわゆる「知的交流」というのが、常に重要だと思うんですね。
日本とアメリカが戦後50年非常に良い関係を築いてきた基礎には、戦後まもない頃からの、フルブライト奨学金事業などによる留学生や学者の交流が挙げられます。
一方、日中の間は、日米や米中に比べると、そういった「知的交流」がまだ相対的には低いと私は思います。その意味では、留学生や大学教員の交流がどんどん増えて、長期的な日中の発展を支えていけるかどうかにかかっていると思います。
(聞き手:王小燕、写真:劉叡)
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