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『趙氏孤児』:チェン・カイコー監督の「ジレンマ」とは?!

2010-12-14 15:20:58     cri    

 

 チェン・カイコー(陳凱歌)監督の新作映画『趙氏孤児(Sacrifice)』は今年のお正月映画3大作品の第1弾として12月3日から公開されています。2005年の『PROMISE 無極』以後「もう監督としての才能が枯れた」とバッシングを受け続けているチェン監督。今回の新作で「カムバック」を果たしたいところです。公開1週間で「監督の誠意と善意が滲んだ映画だ」「映像美が楽しめる作品」と前向きな評価が多い中、「原作を脚色しすぎ」という声も上がっています。『趙氏孤児』はもともと中国元代の戯曲で、紀君祥という舞台作家の作品です。春秋時代の晋国を舞台にしたものです。悪党の屠岸賈にはめられ一族を皆殺しにされた趙家の孤児と、薬箱にこっそりと孤児を隠し趙家から連れだし、15年かけて孤児を立派な大人に育てた医者・程嬰による復讐の物語で、中国では古くから名作として知られています。今回の作品はチェン監督の脚色により観客の嗜好に合う「今時」の考え方や価値観を多く取り入れ、原作とは異なった趣に仕上がっています。このため、「原作を脚色しすぎ」という意見が出るのも当然です。「作品のオリジナリティ」と「日増しに厳しくなる観客の目」はまさに、チェン監督が今作で直面している「ジレンマ」ではないでしょうか。

 しかし、『趙氏孤児』の前半はかなり好評を博しているようです。チェン監督の前作『花の生涯〜梅蘭芳〜』も前半が絶賛されました。程嬰が孤児を隠し趙家から連れ出したのが見所の前半は、原作と比べてストーリーや登場人物の人間関係がより複雑で変化に富むようにアレンジし、見ていてハラハラドキドキしてしまうようなスリルさえ感じられます。誰もが知っている物語ですが、前半は観客の視線をスクリーンに釘付けにしました。もちろん、これは監督の腕でしょう。一方、ストーリーのクライマックス、映画の見せ場は後半にあると期待が高まったのですが、後半のイメージはぐっと変わり、物足りないと感じる人が多かったようです。

 

 『趙氏孤児』は、中国の伝統的思想である「忠」と「仁」をモチーフにした作品ですが、チェン監督は、この作品で「忠」と「仁」の表現をあえて抑えました。中国の歴史上、「忠」と「仁」を美徳ととらえることが多いのですが、今時の考えでは「愚かな行為で人倫を踏み外すこともある」との見解もあります。チェン監督はそんな時代の流れに合わせて「原作への革新」を求めたのではないかと思います。映画監督にとって「革新」は欠かせない要素ですが、極端に走ったらぎこちないものになってしまう危険性もあります。この点でチェン監督は、『PROMISE 無極』と同じ過ちを繰り返してしまったのかもしれません。

 ストーリーをよく考えてみれば分かります。屠岸賈に妻子を殺される敵を討つために、程嬰の手段を選ばないという気持ちは不自然ではないはず。しかし、映画では、程嬰は15年の時間と自分の命をかけて屠岸賈に真相を知らせ悔しさを味わわせる手段を取りました。これが観客の期待に大分そぐわない展開となってしまいました。中国では「君子報讐十年不晚(君子の敵討ちは10年待つ)」ということわざがありますが、「チャンスがなければ10年間待っても焦ることはない」という意味合いもありました。しかし、映画のストーリーでは、程嬰と韓厥はいつも屠岸賈を殺すチャンスがあったにもかかわらず、韓厥の復讐は程嬰によって何度も止められるのです。また、チェン監督が新たに登場させた人物「韓厥」は最初から余計な存在になってしまいました。一方で、妻子を殺されいつでも敵を討ちかねない医者の程嬰を側近として快く受け入れた屠岸賈の「悪党」らしくない行為にも、誰も納得が行きませんでした。人物の複雑な心理的変化を描き出そうとするチェン監督ですが、前半と後半で屠岸賈はまるで別人のようで、そんな変化に「付いていけない」人も多いでしょう。

 『趙氏孤児』は古くから伝わってきた名作だけあって、脚色できない部分もあります。何度も映画化・ドラマ化された『三国志』のように、脚色に成功した作品は少ないでしょう。「忠」と「仁」を語るには名作にこだわる必要はありません。チェン監督をはじめとする中国の第5世代監督は中国映画の発展において重要な役目を担っています。特に『さらば、わが愛/覇王別姫』で早くも大成功を収めたチェン監督は、新作を発表するごとに話題になりました。近年になって、賛否両論のある作品はかなりい多いのですが、観る者に考えさせるという面でチェン監督の工夫は否定できません。日本での公開は未定ですが、チェン監督の映画ファンなら見逃せない作品であることは間違いありません。(翻訳:コオリ・ミン)

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