4月1日は西洋などではエイプリルフールとして知られていますが、中華圏では張国栄（レスリー・チャン）の命日として知られています。それは12年前の2003年4月1日、一時代を築いた香港の大スター、レスリー・チャンが自殺した日からです。これにちなんで、今回と次回の中国メロディーはレスリー・チャンの歌と物語をお話ししましょう。

永遠のスター

　2003年4月1日午後18時41分、レスリー・チャンは香港マンダリンオリエンタルホテルの屋上から飛び降り自殺をしました。享年46歳でした。自殺の原因については、一年前ほどから鬱病を患っていたためとされています。そのあまりにも突然の死は、映画関係者やファンに大きな波紋を投げかけました。ロイター通信、フランス通信、AP通信をはじめとする世界の多くのメディアは、すぐに報道しました。レスリー・チャンの逝去によって、香港の一時代が終結したとも言われています。

　当時、SARS・新型肺炎の感染が香港で爆発的に広がっていたため、一般庶民は外出を控えていました。それにも関わらず、葬式の朝には世界各地からのファン数万人が雨の中香港の葬儀場に集まり、白いバラを捧げました。また、千人余りのファンが雨の中声を揃えて、レスリー・チャンが生前に好きだった「风继续吹（風は吹いている）」を歌い、最愛のアイドルに別れを告げました。彼が亡くなって12年経つ今でも、一部のファンは「レスリー・チャンは亡くなったのではなく、隠居生活を送っていると信じている」と言います。レスリー・チャンには一体どのような魅力があったのでしょう。なぜこんなに多くの人々に敬愛されているのでしょうか。

デビュー期

　レスリー・チャンは香港の裕福な家庭に生まれ、父は紡績工場の経営者でした。両親の仲が悪く、父は家に戻らない日が頻繁にありました。一方で母は事業に忙しく、レスリーは幼い頃から乳母に育てられます。こんな家庭で育てられたレスリーは心の中にずっと不安を抱え、「自分の幼いころには楽しい思い出がない」と嘆きます。心の中の不安を乗り越えるため、彼は自身の事業においては絶えず完璧を求め、たくさんの努力をしました。

　1976年、20歳のレスリー・チャンはテレビ局主催のコンテストでの準優勝を機に芸能界に入りました。比較的長い下積み時代を経て、レスリーは1983年にようやく「風継続吹（風は吹いている）」をヒットさせます。また、1985年には吉川晃司の「モニカ」のカバー曲が大ヒットし、一躍トップアイドルに踊り出ました。自身の成功についてレスリーは、「私は長年にわたり舞台で様々な苦しみをなめ尽し、今ようやくほんの少しの成果を収めた。これからのために、絶えず頑張らなければならない」と言いました。

開花期

　「世の中にある不思議な鳥がいるそうだ。この鳥には足がなく、生涯ずっと飛び続けるしかない。疲れたら風に乗って眠る。この鳥は、一生のうち一回しか地上に降りない。それは、死を迎える時だ。」これはレスリー・チャンが主演した映画「阿飛正伝（欲望の翼）」のセリフです。

　現実でのレスリーも、この鳥と同じように芸術面で常に完璧を求めます。彼は歌手としてだけでなく、俳優としても非凡な才能をみせました。1987年には、映画「英雄本色2（男たちの挽歌II)」での素晴らしい演技力で香港映画アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされました。また、彼が主演した映画「倩女幽魂（チャイニーズ・ゴースト・ストーリー）」はアジア諸国で素晴らしい興行成績を収めました。しかし、これほどの成功を収めていても、レスリーは心の奥の憂鬱を取り除くことができず、いつも不安と苦しみを感じていたといいます。

番組にお送りした曲

1曲目～　風継続吹（風は吹いている）

　この歌は山口百恵の「さよならの向こう側」の広東語のカバー曲で、レスリー・チャンが生前に好きだった歌です。83年にレスリー・チャンがこの歌でデビューした後、コンサートで毎回歌われた曲です。

　歌詞：

　君の悲しそうな顔を見て

　僕はどうしても離れたくない

　泣く姿も美しい

　どうしたら泣くのを止めてくれる

　君の髪（の生え際）にキスするしかない

　風が吹いている

　君と離れたくない

2曲目～ 沈黙是金（言わぬが仏）

　この歌はレスリー・チャンが自ら作曲し、歌った作品です。レスリーの作曲面での才能を充分に表しました。80年代のポップスの代表曲として今でも香港では誰もが知っている名曲です。

　歌詞：　　　

　冷たい風の中　過去の怒りを思い出し

　偽りと非難にとても腹を立てた

　教訓を得て　ようやく悟った

　どんなことを言われても　言わぬが仏と信じる

3曲目～ 紅顔白髪（白髪魔女伝）

　この歌はレスリーが作曲したもう一つの曲です。

　歌詞：

　生涯の憎しみ

　あの夜のせい

　愛はこんなに難しい

　愛と憎しみは分け難い