筆、墨、紙と硯は中国の伝統的な文房具で、「文房の四宝」と呼ばれています。中国の中部にある安徽省の宣城は、文房四宝の名産を生む土地柄で、文房具を作る歴史は千年を超えています。宣城には、宣紙(画仙紙)のほか、宣筆(せんぴつ)、徽墨(きぼく)、歙州硯(きゅうじゅうけん)などがあります。
宣紙は柔らかく丈夫で、光沢があり、時間が経っても色あせしにくい特徴を持っている紙です。宣城には中国で最大規模の宣紙の生産企業「中国宣紙グループ」があります。宣紙は青檀(セイタン)の樹皮と藁(わら)を主要な原料としています。宣紙づくりは宣城の自然環境と深い関係があり、宣城を離れたら品質の高い宣紙は作れないと言われています。
すべての工程を終えて完成するまでに1年間もかかります。大きい工程は18ほど、細かい工程は180余りもあります。すべては職人の手仕事によるものです。職人にとっては、宣紙作りは体で覚えたもので、言葉では表現できないものです。宣紙づくりの達人たちは今でも毎日博物館を見学し、博物館に陳列されている昔の美術作品を鑑賞して、古い宣紙に残った墨跡はどうなっているかを見つめて、宣紙作りの改良に力を入れています。
ところで、宣紙のほか、宣筆と呼ばれる筆も宣城の名産で、中国の筆の中で歴史が最も長いものの一つです。中国の筆は用途によって筆先の毛の種類を変えます。羊亳(羊の毛)と狼亳(イタチの毛)のほかに、ウサギの毛で作った紫亳、複数の動物の毛を混ぜて作った兼亳などがあります。羊亳は一番柔らかく、紫亳は一番硬く、狼亳は鋭く丈夫で、兼亳は柔らかさと硬さを共に備えているそうです。
次は墨ですが、宣城の績渓という所で作られた墨は徽墨と呼ばれ、中国で一番有名な墨です。績渓には200年もの歴史を持つ「胡開文」という墨作りの老舗があります。この老舗は中国で最も古く、規模が最も大きく、徽墨作りの技術水準も最も高いものです。
この老舗は手仕事による徽墨作りの秘伝を守っています。墨を作るための主要な原料は松煙です。松煙を作る場合、かまどを作り、その上に曲がりの多い煙突をつないで、かまどの中で松やにを燃やします。曲がりの多い煙突からは煙が漏れにくいことから、一定の時間が経ってから、煙突を取り外して、中に詰まった松煙を収集します。収集した松煙ににかわ、漢方薬などを加え、数百回すり潰して、模型に入れてこそ墨がやっと出来上がります。松煙に加えた漢方薬には、麝香(じゃこう)、肉桂(にっけい)、タンジンなどがあるそうです。これは書画にいい香りをつけるためだけでなく、虫除けなどの役割を果たすためでもあります。(翻訳:姜平)
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