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2時間目 転換点に立つマンガ、今とこれからを考える~夏目房之介さんに聞く(下)

2016-08-02 18:39:12     cri    

聞き手:王小燕

 7月19日に放送した「漱石の孫として」に続き、マンガ評論家・夏目房之介さんインタビューの後半です。今回のテーマは「マンガ」です。

 戦後ベビーブーマーの1人として生まれ、手塚治虫の漫画の影響を強く受けて育ち、自分の人間形成は「マンガによって支えられていた」と言います。手塚氏の死を受け、一気呵成に仕上げた『手塚治虫の冒険―戦後マンガの神々』は、「自分のコンプレックスに向き合う作業でもあった」と振り返ります。

 ベビーブーマーの支えもあり、戦後の日本でマンガは大きく花を咲かせ、巨大なマーケットも出現しました。日本マンガは強力なコミュニケーションツールの1つとなり、世界各地でコアなファンを持っています。それでは、「日本マンガ」と称されているものには確固たる本質があるのでしょうか?各国の人々がイメージしている「日本マンガ」は1つなのか、それともズレがあるか?

 「物事の本質は、自分が思っていることだけでなく、他から見られた時の印象との比較により、初めて冷静に判断できる」

 このような思いから、夏目さんは今年、「日本漫画の受容意識」と題して、世界各地で調査を始めました。その中の一環として6月に訪れた中国では、北京、アモイ、上海という日程の中、大学での講義、中国のマンガ出版関係者との交流、マンガ愛好者向けの講演会などを積極的に行いました。

 

 調査はこれまでに日本、イタリア、中国で実施され、年内にインドネシアやタイでも行う予定。このほか、インターネットでの回答も受け付けていると言います。集計はこれからですが、自らの設問に対して、すでに考えが定まっていることもあるようです。

 「マンガというのは、常に色んな要素を取り込んで成立したもの。大衆向けの娯楽だ。日本漫画に確固たる本質があるという考え方は、ぼくは成り立たないと思っている」、ときっぱりとした口調で語ってくれました。

 また、インターネットが社会のインフラになった今、マンガの出版は大きな転換点にあると言います。

 「消えることはないと思うが、姿は変わると思う。うまいこと転換点を通り抜け、新しい形のものが生まれるのか、まだ見通せない時代。しかし、だから面白い。後で振り返って刺激的な、面白い時代だったと思えるよう、私は望んでいる」

 北京ではマンガ関係者向けに、「日本マンガは何故面白くなってきたのか」と題した講演会を行いました。席上、「一番、伝えたいメッセージ」として、「我々は特定の時代、特定の場所に生まれて、そこを生きるしかない。この条件の中で成功したり、失敗したりするということだ。中国の皆さんは、日本のマンガがどんな風に成長したかということよりも、今、中国の歴史的、社会的条件がどうなっているのかを先に考える必要がある。その上で、中国と日本は漫画やアニメにおいて協力し合えることができれば、より良いのではないかと思う」と語りました。 

 今回も単純明快な房之介節をぜひお聞きください。

【プロフィール】
 夏目房之介(なつめ・ふさのすけ)さん

 学習院大学大学院教授、漫画評論家、漫画家、エッセイスト
 1950年東京生まれ。青山学院大学卒。マンガ、エッセイ、マンガ評論などを手がける。1999年「手塚治虫文化賞特別賞」を受賞。2008年より学習院大学大学院教授。人文科学研究科身体表象文化学専攻で「マンガ・アニメーション芸術批評研究/芸術文化論演習」を担当。
 マンガ表現論という研究領域を開拓しつつ、マスメディアでのマンガの啓蒙活動や海外への日本マンガの紹介なども行う。『マンガはなぜ面白いのか』『手塚治虫の冒険』など数十冊のマンガ研究・評論の著作あり。

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