私と親交のある、オーストラリアのケビン・ラッド元首相は、「東アジアの外交対話には多国間安全保障メカニズムがない」と指摘し、このことについて深い憂慮を示したことがあります。そのため、私たちに「相互信頼の増進を通して、紛争解決に取り組み、ヨーロッパの欧州安全保障協力機構をまねた多国間安全保障メカニズムを構築すべきだ」とのアドバイスをしてくれました。しかし、東アジアには、このような多国間協議の枠組みが存在しておりません。目下、朝鮮による核開発は、既に東アジア地域にとって実際の脅威となっています。このような脅威を取り除くために、国連安保理が朝鮮に対する制裁を行っています。中日韓三国は米国とともに、朝鮮半島核問題の解決に向けて結束を強まなければなりません。そして、これを皮切りに、北東アジアの新たな地政学的秩序を構築する基礎ができるであろうと確信しております。朝鮮半島核問題はこれまで、6カ国協議の枠組み内で話し合われてきました。6カ国協議は、北東アジアの主な国が全員加わっているものであり、臨時の多国間協議メカニズムという役割を果たしていました。しかし北東アジアには、このような多国間安全保障機構が常設のものとして存在していません。現状の北東アジアでは、米国と中国が6カ国協議の枠組みを通して朝鮮半島核問題を解決できるのであれば、この枠組みを同地域の新たな地政学的秩序を構築するための多国間地域メカニズムにしてもよいのではないでしょうか。そのため、私たちは、現在休眠状態にある6か国協議の早期再開を促し、朝鮮との十分な対話を通して朝鮮核問題の解決に取り組むべきであると考えます。
このほか、東アジア地域には、合同で向き合う必要のある問題が多く存在しています。例えば、核拡散、テロリズム、金融危機、伝染病、気候変動など、いずれも三国が共同で対応すべきものであると思います。北東アジア三国の経済規模は既に、世界経済の2割を超え、貿易規模も世界全体の20%に達しています。経済と金融危機対策の面で、三国間の協力の必要性をいくら強調しても足りることはありません。しかし、今日この場で、私は環境面での協力の重要性を強調したいと思います。
これまで、私は市民社会のレベルで関連分野の問題を担当し、この問題の深刻さを深く認識しています。我々北東アジア地域は多くの問題に直面しており、三国が排出する温室効果ガスは世界各国で最多となっています。毎年春に、中国の西北部で巻き起こる黄砂とPM2.5などは、中国だけでなく、東アジア地域にも大きな影響を及ぼしています。
三国のガバナンスに求められる代表的な課題の中で、安全保障協力とともに、環境協力の重要性を特に強調すべきはないでしょうか。北東アジア地域は多様な環境問題に直面していますが、幸いにも、ほかの分野に比べて、環境分野では多様な政府間の協議体が発足されていると同時に、市民社会レベルでも持続的に協力事業が推進されています。ただし、これらの事業は個別的で比較的小規模であります。この現状から生じる限界を乗り越えるためには、三国の首脳及び各界の指導者たちを中心とした「北東アジア環境共同体」の構成が必要であると考えております。また、このために定例的な環境サミットの開催を新たに提案したいと思います。
最後に、三国間の関係を根本的に悪化させる相互不信の問題には、公共外交の枠組みで、長期的な観点と互恵的な構想を以って取り組む必要があります。公共外交とは、自国の理念及び制度、文化、政治に対する理解を促進するために、外国の人々とコミュニケーションを図る過程であります。これは直接的に世論を対象とする外交であるため、政治宣伝や民族主義の火種となる危険性が少なからず存在します。だからこそ、互恵的な観点からのアプローチが肝心であり、この過程で中日韓三国協力事務局のイニシアチブや仲介者としての役割、各国指導者たちのビジョン及びリーダーシップ、そして高度な政治的手腕が必要になります。本年、こうして初めて開催される公共外交フォーラムが、ヨーロッパのように共有の互恵的な秩序の根付く土壌になることを心から期待しております。
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