中国の世界遺産めぐり、安徽省の黄山

　中国には、「五岳より帰り来たれば、山を見ず、黄山より帰り来たれば、五岳を見ず」という諺があります。即ち、中国の最も特徴があり、最も有名な五つの山、東岳泰山、西岳崋山、中岳嵩山、南岳衡山、北岳恒山を見たならば、天下のすべての山を見なくてもいい。しかし、先に黄山を見たのならば、この五つの山を見る必要はないと言うことです。いかに黄山がすばらしいか分かりますね。

　黄山は中国の安徽省にあります。安徽省には名山や大河が多く、古くから山紫水明の地として知られています。さらに、文化的な気風に満ちており、知識人が生まれ、集まるところでもあります。こうしたことから歴代の文人が訪れ、隠居する地になったのです。

　黄山は、中国安徽省南部黄山市に位置し、南北の長さ40キロ、東西の幅30キロ、面積は1200平方キロで、風景区に画定された地区の面積は154平方キロに達しています。黄山は山が高く重なり合い、険しい峰が林立し、谷は深いです。気候の落差が大きく、よく雨が降り湿度が大きいことから、霧と雲海が多いのも特徴です。

　黄山は、その独特な自然風景、豊かな資源、重厚な文化の蓄積によって、中国では唯一の世界文化遺産、世界自然遺産、世界地質公園という「三冠」を獲得した景勝地です。1990年にはユネスコによって、「世界の文化と自然遺産」に登録されました。世界遺産委員会は「黄山は中国の文学芸術史に広く讃えられる有名な山で、その美しい自然風景に恵まれた名勝地を訪れる国内外の多くの観光客、詩人、画家そして写真家にとって魅力ある場所だ」と評価しました。

　また黄山は、「天下の有名な風景は黄山に集まる」と古来の文人たちに絶賛された名山であり、とりわけ、奇松、奇石、雲海、温泉といった四つの絶品で、その名を天下に知られています。民間では、「黄山に登れば、天下に山なし、絶景かな」とも言われるほどです。

　黄山はもともと「イ山」（黒に多）山と呼ばれていました。中華民族の始祖とされる軒轅黄帝がその昔、ここで修行をして仙人になったと伝えられています。天宝6年（747年）、唐の玄宗皇帝が「イ山を黄山に改名せよ」という詔を下して以来、「黄山」という名が今日まで使われています。

　黄山は、中生代の最後の時代・白亜紀に形成されたといわれ、その歴史は今から約1億3千百万年前に遡ります。その後、第4紀氷河時代に削りとられ、このような奇峰・怪石が林立し、断崖絶壁や深い谷間がつづくという独特な地形となったのです。主峰の蓮花峰、光明頂、天都峰の標高は、いずれも1800メートル以上。周囲には標高1000メートルを超える77の高峰があり、深緑の連なる雄大な光景です。

　黄山の松も有名です。百年以上の樹齢を持つ松の木が1万株もあり、造形は独特で、上部は平ら、針状の葉が生い茂り、その葉が青緑色をしているというのが四大特色です。この松の枝ぶりはたくましく、岩の隙間に根をおろし、深く根をはり、長寿でもあります。そのうち、玉女峰の麓にある迎客松は黄山のシンポルです。

　険しい峰々には、いたるところに奇岩怪石が見られ、まるで「神業」のようです。珍しい岩と松からなる光景はすばらしく、目を休めるひまもないほどです。

　黄山の気候の温度は落差が激しく、１年のうち200日以上は霧と雲海に覆われています。この雲海は様々な素晴らしい景観を呈しています。「雲海の郷」と称えられる黄山は、その峰を体とすれば、雲を衣にしているようです。千変万化の雲海を目にした人は、まるで仙境にいるかのような思いにとらわれることでしょう。そんな山谷の霊気を集めたかのような黄山温泉は、一年中湧いています。１時間48トンと湯量も豊富です。お湯につかるとちょうどいい湯加減で、心地良いことこの上ないです。湯は臭みのないまろやかな味です。ここでは体も温まり、登山の疲れも癒されます。また、体によいという微量元素を含んでいるので、湯治や入浴に適しています。1979年7月、黄山を視察した鄧小平氏はこの温泉を満喫し「天下名泉」という親筆を残したといわれています。

　黄山は、美しい自然景観に恵まれているだけでなく、奥深い中国文化を兼ね備えています。これまでの数百年、黄山には、百あまりもの寺院が建てられてきました。いまでも、保存状態のよい古刹は、松古庵、釣橋庵、翠薇寺の3ヵ所ですが、景色の美しい山あいで、世の変遷を記憶にとどめた古刹をめぐり、昔を思えば、なんとも感慨深いものがあります。

　黄山の美しさに魅了された多くの文人は、この山を訪ねたり、ここに留まり、詩を読んだり、絵を描いたりして、豊かな文化を形成しました。いまでも黄山の石に刻まれた文字などが200カ所以上、歴代の山道、橋、寺、亭（あずまや）などは100ヵ所近くに上ります。

　歴史上数多くの詩人や画家、芸術家たちが黄山を訪れ、黄山の素晴らしさを讃える、数え切れない優れた芸術作品を作りました。中国歴代の詩人、李白、賈島、范成大、石濤、龔自珍らも黄山を讃える作品を作ったことがあり、その作品は2万点以上あると言われています。

　では、ここからは、黄山の主な観光エリアを３つをご紹介します。まずは、玉屏景勝地

　黄山玉屏景勝地は、玉屏楼を中心に、蓮花峰と天都峰を主とし、沿路には、「蓬莱三島」、「百歩雲梯」、「一線天」など独特の風景が見られます。

　「蓮花峰」は、黄山第一の峰であり、海抜1864メートル、峰は高く聳え、雄大で、峰の様子が咲き始めの蓮花に似ていることから、その名前がつけられました。天都峰は、黄山三大主峰のなかでもっとも険しく、海抜1830メートル、峰には、「登峰造極」の石の彫刻があります。もう一つの峰の名前は光明頂で、海抜は1841メートルです。

　次は、北海景勝地

　北海景勝区は峰、石、石橋、台、松、雲などの独特の風景が集まり、偉大さ、奇妙さ、険しさが特徴です。獅子峰、清涼台、猴子観海、仙人背包、夢筆生花、飛来石などと名付けられた観光スポットが有名です。

　西海大峡谷

　西海大峡谷は、白雲景勝区と松谷景勝区をつないでいる地で、景勝区内には、松林、奇怪な石が連なっています。雲と霧に包まれ、渓流のせせらぎも聞こえます。大峡谷は西海郡峰のなかにあり、北は、西海排雲亭、南は、白雲景勝区の歩仙橋にいたります。総面積は、16.5平方キロ、黄山の一番いい散策地です。

　黄山は、年中観光できます。四季によってその美しさが変化します。今は秋ならではの美しさを楽しむことができます。皆さん、是非、安徽省の黄山にお越しくださいね。