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「ねえ、清明節帰るの?おばあちゃんね、昨日たくさんの春菊もちを作ったのよ。あお姉ちゃんと、ももこちゃんもみんな帰るんだって。春菊もち、大好きでしょ。」
教室に行く途中で、母から電話がきた。そう言えばもうすぐ清明節なんだ。3月に学校にきたばかりなのにまた三連休。帰りたくないというわけではないのだが、ただ汽車で帰ることにちょっと抵抗がある。
「うんうん、分かったよ。じゃ、切るね。」
愛想なく答えて、さっと携帯をポケットに入れた。視界の隅の明るいものが気にかかり、背後を振り返ると、大きな丸い月がビルの合間からわたしの方を覗いている。久しぶりに見る明るい月、なんか落ち着いた。春菊もちか、懐かしいな。少なくとも一年か二年は、食べていないだろう。
故郷の味といえば、春は春菊もち。みんなはそう言ってる。わたしの故郷は中国の南の方にある小さな村で、春になると、あぜ道、庭の中、どこでも春菊が芽生える。小さくて、なかなか見つからない。春菊には波長があるんだろうか、それの合う人にしか姿を現さないって幼いころ私はそう思った。
春菊を摘んでから、きれいに洗って、白玉粉と混ぜ、また家族の好みによって塩漬けの肉をちょっと入れたら、もっと美味しくなる。それから、丸く平たく捏ねてトロ火でゆっくり焼いて、裏返しも忘れずに、きつね色になると出来上がりだ。いい匂いがぷんとしている。食べてみると、中身はもちもちで、表面はさくさく。春菊の匂いに心の芯まで温まる。
子供のころから大好きだった。よくあお姉ちゃんと一緒におばあちゃんの後にくっついて、春菊狩りに行っていた。姉は要領がよく、私よりずっと器用だったので、姉がたくさんの春菊を摘んだのを見て、負けず嫌いのわたしはイライラしてきた。裏技をつかうしかないと思って、姉が目をそらしている隙に、こっそり姉のかごから春菊を自分の手提げかごに入れた。でもすぐにバレてしまって、姉は「ずるい~早く返せ!」と言いながら、追いかけてきた。おばあちゃんはただただそばで見守ってくれて、気づくといつしか日が暮れていた。「さあ、カエルが鳴いたら帰りましょ。明日春菊もちを作るよ」とおばあちゃんは微笑んで言っていた。夕日を浴びながら、姉と手を繋いで家路についた。考えてみれば、もう数十年も前のこと。
おばあちゃんは田舎から町に引越した。町には春菊が田舎ほど多くはない。いま、おばあちゃんはどうやってこんなにたくさんの春菊を摘んできたのだろう。どこかの隅っこから見つけて取ったのだろう。腰は大丈夫だろうか。
春菊もちを食べる習慣を今日まで続けてきた。ほんとうにありがたいことだ。若者はみんなだんだん故郷を離れて遠いところへ行ってしまったけど、きっと故郷の味が心の底に残っているとわたしは思った。おばあちゃんのようにすばやく春菊狩りができなくて情けない。おばあちゃんが作ってくれた春菊もちはおいしくて、まねしても思い出の味ではない、なんかせつない。今から習っても遅くないでしょうか。
「何ボヤっとしてるの?あれ、泣いてるの?どうした?」隣の友達の声が耳に届いた。
「ああ、いや、何でもないよ。さっき映画を観ててじーんとしただけ。ごめんね。」と一瞬で笑顔に変えて返事をした。
帰りたい!おばあちゃんに会いたい。心の中で強くそう思った。
教室から出ると、すぐさま母に電話した。
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