と、そのとき、黒い顔の大男が店に入ってきて、伊五に向かって一礼した・

　「これは伊五さま。あなたがここで人と飯を食べていることを知り、わしの主が金をもって行けといいましてな。さ、これで勘定を済ましてくだされ」

　こういって懐から小袋を出し、卓に置くと店を出ていってしまった。そこで伊五が小袋の中身を卓にあけ、伊五の幼馴染たちが銭を数えたが、なんと丁度七千二百文あったので、みんなはびっくり。ここで伊五が普通の人間でないことがわかった。

　また、ある日、伊五が友だちと町を歩いていたとき、不意に人の乗った白い馬が走っているのを見かけた。みんなはどうして町の真ん中で馬を走らせているのかと不思議がっていると、伊五がその馬を追いかけ始め、「馬上のもの！その袋をよこせ！」と叫んだ。すると、馬上の男はおとなしく馬を止めて、腰にぶら下げてあった袋を伊五にわたし、また馬でどこかへ行ってしまった。これにみんなが首をかしげ、伊五のところに走る寄ると、伊五は袋を右手に持ち言う。

　「この袋には子供の魂が入っているんだ。さっきの馬に乗った奴は死神だよ。いつも馬に乗ってあちこちにいき、子供の魂を勝手にもっていくんだ」

　これにみんなは答えられない。

　「危ないところだった。これから近くを回ってみよう。どこかの家で子供が死んでいるはずだ」