これに驚いたみんなが伊五についていくと、ある横丁を回ったところで、一軒の家から泣き声が聞こえる。そこでその家に行くと、今さっきこの家の男の子が急死したという。そこで伊五が袋を開けて床に横たわっている子供の側に寄った。するとそれまで目をつぶって息をしなかった子供が、不意に息を吹き返し、ワーと泣き出したではないか!もちろん、その家の人々は大喜び。何がなんだかわからないが、伊五に礼を言おうとしたが、それより先に伊五は外へ出てしまっている。
これで伊五の名はかなり知れわったった。そして多くの人が何かあると伊五のところに助けを求めに来る。
ある大官、娘が魔物に付かれたといって屋敷の者を送って迎えに来た。実はこれまで多くの医者や巫女に来てもらったが、どうしてもだめだったという。そこで伊五が屋敷に行くと、どうしたことが、その娘が騒ぎ始め、伊五を屋敷から追い出せという。それを相手にせず、伊五は娘の部屋に入ると娘は目を大きく開けて、何かを抱えて隅の方で座って震えていた。そして急に立ち、後ろに下がると、なんと化粧台の引き出しからはさみを取り出し、先を伊五のほうに向けた。これに伊五はにゃっと笑い、娘の目をにらんだ。そして大きく息をしたあと外に出て、外でおろおろしている大官にいう。
「お宅のある道具は化け物になっていますよ。娘さんはそれに取り付かれていますよ。化け物退治は今でなく、夜にしましょう」
これに大官はただうなずくだけ。こうして伊五は屋敷の応接間に案内され、出されたお茶や食事などを済まし、そのときが来るのを待った。やがて夜が来た。しかし、伊五は応接間の横の部屋でいびきをかいて寝ている。これに大官や屋敷のものはいらいらした。伊五を起こしたいのだが、伊五がこれまで多くの魔物などを退治していると聞いたので、ただ手をこまねいて伊五が起きるのを待っているしかなかった。
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