「実は、昨日あんたの行いを見て考えたんだよ。あんたはわたしを助けるため、馬車の荷物を全部捨て、それに家に帰ってもわたしの面倒を見てくれたな」
「そ、それが?・・」
「いや、あんたはたいした人物だということだ。わたしは感動したよ」
「いやいや、わたしは何もしていない。当たり前のことをやっただけだ」
「そのあんたの心構えがいい。そこで、昨夜横になりながら考えたんだが、人の良いあんたをこのままあの世へ連れていくのはどうも気が進まん」
「え?あんたは本当にこのわたしをあの世に連れて行くため来たのかい?」
「ああ。ほんとのことだ」
これに張凱はびっくりし、しばらく黙ってしまい、そのうちにかすかに震えだした。これを見た男は気の毒になり、少し考えてからいう。
「あの世の名簿にあったが、ここら一帯にあんたとよく似た名前のものがいるんだ。あんたは張凱だろ?そいつは黄凱というんだ。で、そいつはあんたより若いが普段の行いが悪く、みんなから嫌われているんだが・・そいつをあんたの代わりにあの世に連れて行くか」
「そ、それはありがたいが、そんなことできるのかい?」
「ああ。事情を閻魔に細かく話せば、何とかなるかもしれない」
「で、ではそうしてくださいよ。わたしはこれまで悪事を働いたことはない」
「そうだろうね」
「ですから、お願いしますよ。このとうりだ!」
と、張凱はその場に跪き、両手を合わせた。これに男は苦い顔をして「じゃあ。そういうことにしよう。言っておくが、あんたはこれからも人助けを忘れなさんなよ」
「わ、わかった。ありがとう」と張凱が頭を下げた。そして顔を上げるとかの男の姿はなかった。
さて、その数日後、山を越えた隣の村すむ黄凱というごろつきが夜酒に酔って足をすべらせ川に落ち、溺れ死んだといううわさが張凱の耳に入った。
「そうか。黄凱さんとやら、わたしの代わりにすまないねえ。仕方ないんだよ」と張凱はかのあの世から来た使いに感謝した。こうして張凱は男に約束したとおり、それからは人助けに励み、なんと八十ぐらいまで元気に生きたという。
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