「なにいってんだい?でも色もつやも出ていて、なんかうまそうだね」
「そう。食べてみる?」
「どれどれ?」と母は娘が箸で摘んでいた豆腐を指でちぎって口に入れた。
そして暫く眼をつぶり、味わっていたが、急に「これは舌がとろけるようにおいしい!」と眼を輝かせ、不意に小屋を飛び出し、娘の父を呼んだ。「おまえさん!おまえさん!おまえさんったら!!」
急に大声で呼ぶものだから、父がびっくり。
「なんだよ!なんだよ!急に大声出しやがって!金でもみつけたのか?」
「そうじゃないよ!ちょっと小屋まで来て見なさいよ」
「なんだよ!なにがあったんだい?」
父が来たので母は父を小屋に入れた。
「うん?いい匂いだな?お!、娘よ、お前が箸で摘んでいるのはなんだい?」
「とうさん、これが今年の初め、劉姉さんが村に来たときカビが生えた豆腐よ」
「うそつけ。でもうまそうだね」
「そう。お酒の色がして、つやがあるでしょう?どう、味見してみない?」
「味見?うまい匂いはそれか?へえ?信じられねえな、じゃあ、少し味見してみるか、どれどれ」と父が口をあけると、娘は箸で摘んだ豆腐を父の口に入れた。
「うむ。うむ。こ、こ、これはうまい。塩辛いけど、酒の味がしみこんでうて甘い酒味噌みたいだ。これはこのままで食べるよりは、お粥やご飯と一緒に食えば、味が引き立つかも知れんな。それにこれだけでも酒の肴になりそうだ!うまい、うまい!」と父は興奮し始めた。
「でしょう!?これがカビの生えた豆腐よ」
「な、なんだって?これがあのカビの生えた豆腐だって?」
「そうだよ。おまえさん。あの時に塩と酒を入れたので、腐るどころか漬物みたいになったんだよ」
「へえー!そうだったのか!塩と酒を入れてこうなったんだな。よし、ほかの豆腐も同じように工夫すればきっと売れるぞ」
「父さん、元気が出てきたわね」
「そうよ。うちの亭主はこうこなくっちゃあ!」
|