これを見た船頭、幽霊は酒の匂いが苦手だと悟り、酒の勢いを借りて幽霊の顔めがけて何度も怖い顔をしながら息を吹きかけた。とそのときに、夜明け告げる雄鶏の鳴き声が下かと思うと、幽霊はふと姿を消してしまった。これはいかんと思った船頭は、船倉にもどり、酔いと疲れのため、そのまま寝てしまったわい。そして昼前に起きて「あの幽霊はこの近くにいるにちがいない。今晩もでるにちがいない。よし、今晩は必ず退治してくれる」と決意し、飯を食ってまた寝た。そして夜をまっていつものところに舟を浮かべ、夜半まで待った。案の定、夜半に幽霊が現れ、また船で向こう岸まで渡してくれというので、酒をがぶりと飲み、前日より大きなひょうたんに酒をたっぷりいれて腰にかけ、布切れと火打ち石を懐にしまってから、幽霊を向かい岸に送った。幽霊はなんと前日と同じように舟を飛び下り、おかしな歩き方をして、今度は西のほうへ歩いていく。「今夜こそは!」と船頭が後をつけると、幽霊は墓場に来て、ある墓穴に入っていく。「なんだ?焼き殺してやる」と船頭は、幽霊が入っていった墓穴の前に来ると、先に酒をがぶがぶ飲んでから、懐から布切れを取り出し、酒をかけた後火打石でそれを燃やし、墓穴にほうりこんだ。すると、かの幽霊がすごい形相で出てきたので、船頭はまたも酒をがぶがぶ飲み、酒臭い息を思いっきり幽霊に吹きかけたので、幽霊はふらふらとよろめいた。そこで船頭、なんと酒の勢いで幽霊の手をつかみ、ひょうたんに残った酒を全部幽霊にぶっかけ火をつけて焼いた。こうして幽霊は恐ろしい叫び声を放ちながら、燃え尽きてしまった。こうして船頭、幽霊が焼き尽くされたのを見終えてから、酔いが回ったのか、その場に酔いつぶれたそうな。
このときから、ここら一帯には首吊り幽霊は二度と出なくなったという。
とまあ、以上のようなお話でした。日本の幽霊とは少し違うみたいですね。でも、酒の匂いを嫌う幽霊、それに酒を飲んだ後の船頭は怖いもの知らずなのには、この林涛も驚きました。
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