「きっと、あそこだ!」と息子は疲れた体を引きずるようにして明かりのほうに歩いていく。やがてかの家が見えてきたので近づいてみると、中から赤子の産声が聞こえたので、安心したのかそこにべったりと座りこみ苦しそうに息をし始めた。
こちら家の中では赤子が無事に生まれたのでみんな安心しているところ。外の部屋で待っていた男たちは互いに「めでたい、めでたい」と言いながら喜んでいる。そこで元気を取り戻した息子が勝手に入っていくと、赤子の鳴き声がする部屋からなんと母が疲れた顔をして出てきたではないか。
これをみて息子が叫ぼうと思ったが、それより早く、この家の主らしい男が、ばあさんの前に来て深々と礼をした。そこで息子が「かあさん!おいらだよ。心配だから迎えに来た」というと、この声に家の人たちは驚いたが、これがばあさんの息子だとすぐに悟った。
こちらばあさん「なんだい?お前。何が心配なんだね」
「だってよ!」
このとき、家の主らしい男が言う。
「これはこれは、息子どのでござったか!さ、ここに腰かけなされ。親思いの息子さんですな」と座るように勧める。
ばあさんは、そんなことにはかまわず、またかの部屋に入っていき、あと片付けなどを終え、産婆さんにいろいろと言いつけてから息子と共に帰ろうとする。これをみた家の主、少し休んでいくようばあさんに勧めたが、ばあさんはすぐに帰ると言って聞かない。そこで主はばあさんがかなり疲れているのをみて、これ以上止めるのをやめて、他の男たちにばあさんを駕籠に乗せるよう言いつけた。そして準備してあった金をばあさんに渡したが、ばあさんは「わたしゃ、銭なんかこれまで受け取ったことがない」といってこれを拒む。それでも主が受け取ってくれるよう頼むと、ばあさんは怒り出し、これ以上受け取れというなら、歩いてかえるといい、何と駕籠から降りようとする。
「これはまいった」と家の主は、もう一度礼をしてから言った。
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