「ばあさま、それほど言われるのであれば、もう銭はしまいます。で、どうでしょう。実は、今年、うちの大豆が豊作なので、いくらか持って帰り食べてくだされ。いやいや、そんなに多くは差し上げません。少しだけでござる。大豆だけでもお持ち帰りくだされ。さもないとわたしが困ります」
これにはばあさん、どうにか首を縦に振った。
「大豆だけなら少しだけ貰ってもいいよ。でも一掴みだけだよ」
「はいはい、わかりました。一掴みだけお持ち帰りください」
そこで、主はニコニコ顔で部屋から赤い布の包み持ってきてをばあさんに渡した。ばあさんがそれを開けて見ると、確かに大粒の大豆が一掴み入っている。
「なんとまあ、出来のよい大豆じゃねえ。きっと野良仕事が上手な人が作ったんだね」とうれしそうに包みを懐にしまいこんだ。
こうしてばあさんを乗せた駕籠は元来た道を戻り、息子も安心した顔で一緒に帰っていく。ところが駕籠は速く、息子は疲れていたのでもちろん追いつかず、かなり引き離されたので、息子は疲れた体を奮い立たせあとを追った。
こちら駕籠のなかのばあさん、自分もかなり疲れたので駕籠にゆれながら眠ってしまう。そして気が付いてみると、駕籠は止まっている。ふと見るとかごの両側の窓もない。あたりは真っ暗なので、あれ?と思って駕籠から降りようとして周りを触ってみると、なんと自分は息子が編んだ鳥かごの中にいるではないか。
「息子や!息子!」とばあさんが叫ぶと、「おかあさん」という声がして、なんと嫁が近くから出てきた。つまり、家についていたのだった。
「おかあさん、どうして駕籠で帰って来ないのです。あら?これはうちの人がなくした鶏篭ですよ!」
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