中国の多くの伝統的な戯曲をどう継承していくか頭を悩ませたのに対し、台湾や東南アジア一帯ではやっていた「南音」は、本土の小さな舞台から、欧米に入り、一流の劇場で花を咲かせ、数多くの世界的な芸術フェスティバルで響くまでになりました。
南音は中国の福建省や東南アジアではやってきた民間音楽で、長い歴史があります。漢の時代以来の中国の雅楽の特徴を生かし、優雅で柔らかいメロディです。弦楽器の琵琶、三弦、胡弓、管楽器の洞簫、リズムを決める打楽器の拍板を中心にした小編成で演奏され、その伝承には、口誦とともに南音固有の記譜法と歌詞集が大きな役割を果たしてきました。台湾でも明の時代から演奏され、その伝統は今なお、多くの演奏団体に連綿と受け継がれています。そのうち、台湾の漢唐学府が南音芸術の積極的な擁護者です。
20年余り前、漢唐学府の創始者である陳美娥氏には初めて南音に出会ったときに、「この古い芸術が受け継がれないだろう」と強い危機感がありました。
陳美娥氏は南音の響きを再び整理し、それらを組み合わせ、新しい大型の舞台演出作品を出しました。メロディから楽隊の編成まで、南音の原型を生かしましたが、踊りの部分には、地方劇のステップを取り入れました。それによって、「貴族サロン」で自分たちを楽しませるこの少数派の芸術様式を、大きな舞台に出すことに成功したのです。
伝統文化の保存は、今が大切です。現代人に喜んでもらわなくてはなりません。保護とは、時空を超えて変わらないことではなく、遺産や骨董としていくのではなく、人々の心の中に生かすことです。
|