次は「原化記」という本から「鏡」
「鏡」
時は唐の貞元年間、蘇州を流れる松江という川が太湖に入る一帯で、漁民が網を張っていた。
ある日、漁民たちはいつものように網を張ったが、おかしなことにこの日は一匹の魚もかからない。首をかしげた漁民たちは、それでも網を張り続けた。すると一隻の舟の網になんと一枚の鏡がかかった。
「なんだい?今日はおかしいぞ。魚じゃなくてこんなつまらんものが網にかかるとは」
怒った一人の漁民はその鏡を川に捨て、舟を動かしてまた網を張ったところ、なんと例の鏡がまたかかった。
「どうしたんだい?またかい?本当についてねえな」
もう一人の漁民がこの鏡を手にし、この鏡が普通の鏡と少し違うことに気づいた。
「うん?この鏡は変わってるな?それに少し大きいぞ?どれどれ」とこの漁民、どうしたことが鏡で自分の体を映してみたところ、鏡に映ったのは、自分の骨格と五臓六腑である。
「ありゃ?なんだこれは。これが俺の体の中かい?うわ!胃や腸が腐ってるみたいだ!気持ち悪い!!」
こういってこの漁民は、吐き気を催して気を失ってしまった。同じ舟に乗っていたもう一人の漁民がこれを見て不審に思い、落ちた鏡を拾い、自分を写したが、鏡に見えるのは自分の頭骸骨だったので、泡を吹いてぶっ倒れた。
これを見たもう一人は、気持ちが悪くなり、あわてて鏡を拾って河に捨てた。
しばらくして気を失った二人の漁民が息を吹き返したが、これ以上網を張る元気もなく、三人はあわてて網を舟に引き上げ、岸に上がって互いに助けながら家に戻った。そして元気が出た後、村の年寄りにこのことことを話したが、年寄りたちはかの鏡がなんであるかはわからないありさま。
そこで、この三人の漁民は翌日も同じところで網を張ったところ、なんとこの日は大漁。面白いほど魚が網にかかるではないか。その上、この舟の三人は、実は元から持病があったのだが、その持病が治った。
こうして三人の漁民は数日後には漁には出ず、ここら一帯で一番の物知りだという九十近くになる老人を訪ね、仔細をはなしたところ、この老人は
「これはわしの死んだ祖父から聞いたことなのじゃがな。この河には不思議な鏡が底に沈んでいて、何百年に一度は人間に拾われるということじゃ。しかし、誰の持ち物だということはじぇンじぇん分からないそうじゃ。しかし、祖父は、この鏡はこの河に数千年も棲む化け物のものの持ち物らしく、その化け物はふざけるのが好きだとか。それ以外は、このわしにもわからん」と答えたそうな。
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