今度は「広異記」という書物からです。
「拾った剣」
いつのことかわからん。ある農民が野良仕事をしているときに、近くの溝から汚い一本の剣を見つけた。
「あれ?こんなところに剣が落ちているぞ。それにしても長い間誰にも見つからなかったんだろうな。かなり汚い」
農民はこういったあと、近くの小川で剣を洗った。
「うん?洗ってみれば、そう悪くはなさそうだ。そうだ。明日にでも町の市で売ってやろう」
と農民は剣をしまい、野良仕事が終わると家へ帰った。
次の日、農民は町の市に行ってこの剣を売るため市の角のほうで剣を取り出し前へおいて座っていた。しかし誰もこの剣を買おうとはしない。昼過ぎになって農民はこの剣は売れそうにもないと諦めかけていると、一人の異国人で商人らしい男が農民の前を通り、ふとその剣に目をつけた。そして剣を取り上げ暫く目を細めてたあと聞く。
「この剣は、いくらで売るつもりかね?」
うれしくなった農民、やっと買い手が見つかったと思ったが、剣を高く売りつけるため、こう答えた。
「この剣は古いんだよね。値打ちはあるんだが・・」
そこで商人が言う。
「どうだい?銅銭1千出そうじゃないか」
「銅銭1千?」
「だめかね?」
「いや、それは困る」
「じゃあ、五千だ」
「いや」
「じゃあ、銀銭1千でどうだ?」
「う~ん。いや、断る」
「そ、それじゃあ。金1千で買おう!」
ということになり、農民は溝で拾った剣を金一千で売ることに同意した。そこで商人は金は宿においてあるので、翌日、農民の家に剣を取りに行くと言い残し、農民の家がどこにあるかを聞いたあと、てホクホク顔でその場を去っていった。
こちら農民、意地を張って商人とやりあい、金1千で拾ってきた剣が売れるとは夢にも思わなかったので、これもニコニコ顔で家に戻った。
その日の夜、農民は空に上った月が丸いと妻と庭で話していた。
「どうだい?あんな汚い剣が金1千で売れるとは、天に昇るような気持ちだぜ」
「ほんと。あんたもよく頑張ってそこまで値を上げたものだね」
「うん。よく頑張ったものだ」
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