話はまだ終わっていませんが、当時私にとって忘れられないのは二人の呑み助でした。一人はこの林涛が、コップにあと二口ほど酒が残っているだけなので、もうそろそろ腰を上げようと思っていたとき、40ぐらいの背の高い人が店に入ってきましてね。その人は大きなコップに一杯「二鍋頭」を買って隅のほうに空いてた席にちょこんと座り込み、古びたかばんの中から小さなりんご。あれは日本語でワリンゴというのでしょうかね。それを取り出し、まずは酒を大きく一口のみ、強い酒が喉を通るのをまって深呼吸したあと、そのワリンゴを一口かじり、いくらかかんで飲み込んだあと、また酒を大きく一口。そしてあっという間に酒を飲み終わり、満足そうな顔をして、周りをゆっくり見てから店を出て行きました。家に帰るのでしょうか?あんなに速く400ミリリットルは入るコップ一杯のつよい「二鍋頭」を飲んだのに、店に入ってきたときとまったく同じ表情で帰っていったのです。そのときわたしは、家計の原因で、簡単な酒の肴も買わず、小さなワリンゴを齧るだけでその日の酒を終わらしてしまったのか、と思ったあと、すぐに家計が比較的苦しいが、酒だけは飲みたいというので、毎日そうしてるのかと考えました。こんなこといっちゃなんですが、気の毒な気もし、やっぱり呑み助だなとも思い、また仕事で疲れ、一日の唯一の楽しみは帰宅の途上のあの一杯なんだなと想像しましたね。その後、家計がよくなり、あのような飲み方をせず、せめてピーナツでも買ってつまみとして、落ち着いて酒が飲めるようになっていればいいんですがね。私も酒飲みですから同情しますよ。それは。
もう一人。あれは秋もすぐ終わる頃。違う店でしたが、50近くの男性がはいってきて大き目のコップに一杯「二鍋頭」を買い、店の隅のほうに行って立っていました。「ありゃ?座らないのかな?」と思ってみていますと、その男性は、料理をたくさん注文したテーブルをじっと見つめ、そして何か自分がそれら料理を口にしたかのような仕草をしてから、やっと自分のコップの「二鍋頭」を美味そうに飲むんですよね。これには少し驚きました。そしてまた他のテーブルをみつめ、同じような仕草をしてから自分のコップの酒をのみ、コップの酒がなくなると、恨めしそうに店を出て行ったのです。
|