ここまで話した叔父は冷や汗かいていたのか、側においてあった手拭で汗をぬぐった。
「つまり、こう言い逃れをしてもどってきたのじゃ。もし、お前が呼んでくれなければ、わしは本当に死んでいたワイ」
「それはよかった。叔父上、よかったですね」
「しかし、あの主は諦めてはおらんようだ。どうしよう?」
「そうですねえ。いまとなっては、わたしがまた叔父上を一生懸命呼ぶというやり方を再び使うしかありません」
「そうだな。お前が呼んでくれたおかげでわしはこの世に戻れたのだからな」
「そうですよ。昔の本に書いてあったやり方はやはり今でも効き目があるのですよ」
ということになり、叔父は目をつぶって何かを唱えていた。そのうちに叔父はなんと気を失ってしまった。これを見た盧仲海は、またも先ほどと同じように悲しい声で叔父の名を何度も何度も叫んだ。
やがて朝方になり、叔父はまたも息を吹き返した。
「叔父上、今度はどうでした?」
「おお、お前がまた必死で呼んでくれてよかったわい!怖かったぞ!」
「どうしたんですか?」
「今度はさっきの続きじゃ。あの主が、よく戻ってくれたと喜び、また飲み直しになった。そして今度は何が何でもある職につくようにといわれ、どうも断れずに困っていると、相手は怒ったのか本性を現した。わしは地獄の使いだといってな」
「ええ!地獄の使い?」
「そうじゃ。主の顔が急に変わってな。真っ赤な顔に大きな三つの目がつき、口は割れて牙をむき出したじゃ」
「そ、それは!」
「怖かったワイ」
「それで?」
「お前が必死に呼んでくれたので、わしは逃げ出したが、奴が追ってくる。またお前の呼び声が聞こえる。そしてそのうちにわしが息を吹き返したのじゃ」
「そうでしたか」
「どうしよう?」
「叔父上、あの昔の本には、地獄のものはまたもとの所に人を探しに来るとあったようですが、ここにいてはまた呼ばれますぞ」
「そうじゃな。いち早くここを離れて遠くへにげよう」
「そうしましょう」
ということになり、盧仲海と叔父は宿のばあさんを呼んだが、返事がない。
「うん?おかしいぞ!」
と二人は宿の中を探したが、誰もいない。やがて宿の裏にある井戸から煙があがっているのが見えた。これには二人、首を傾げたが、急に何かをおもいだして恐ろしくなり、二人は慌てて荷物を持って宿を出たあと、近くのにある川まで行き、そこに泊まっていた舟で遠くまで逃げていったという。
さて、宿のばあさんはどうしたのだろうね。さっぱりわからん!
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