今度は、昔の本「続玄怪録」からです。
「馬震の母」
都の長安からかなり離れたところにある扶風に生まれた馬震が、長安の平康坊にすんでいたころ。
ある日、住まいの門を叩く音がするので、馬震が門を開けてみると一人の少年がいた。
「おいらは、近くで驢馬を貸している店のものだけど。いまさっき、きれいな服を着たおばさんが店の驢馬を借りてどこかへ行ったんだ。そして戻ってきたが、店には来ないで旦那のこの家に入っていったみたいだ。それで外を探すと驢馬は確かにあったけど、あのおばさん、貸し賃払ってないんだよ。旦那、あのおばさん知りませんか?」
これをきいた馬震、おかしな顔をした。
「きれいな服を着たおばさん?知らんな。小僧、お前見間違えたんじゃないのか?」
「そんなことないよ。おいらはっきり見たんだから!」
少年の必死なまなざしに馬震も困った。そこで何かわからんが、駄賃を持って帰ららないと店の親方に叱られると聞いた馬震は仕方なく、懐から細かいのを出すと少年渡した。
「ありがとう」
すると少年はぺこりとお辞儀すると走ってどこかへ行ったしまった。
「おかしいな。私は一人住まいなのに・・」
馬震、この日はそれだけ考え、あとは忘れることにした。
と、次の日の午後。またも門を叩く音が聞こえたので、馬震が出てみると、例の少年であった。そして同じことを繰り返す。もちろん、気のやさしい馬震のこと、また細かいのを払ったが、「これはおかしい。なにかあるぞ」と思い、翌日から自分が門の外に潜んで様子を見た。こうして午後になった。すると確かにきれいな衣装をまとった婦人が驢馬に乗って自分の住まいに向かってくるではないか。そこで近づいてみると、その婦人の着ている衣装に見覚えがある。
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