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日本人スタッフのつぶやき342~ 北京引きこもり指南②あくまでバーチャルな世界で暮らす その1

2016-08-04 18:24:00     cri    

 かなり前に書いた前稿では、通販生活の利便性に言及しました。

 今回は、前回少々言及したこうしたバーチャルな社会の仕組みが出来た背景と、それを支えている技術を紹介してみたいと思います。もちろん、引きこもりを生むシステムに関する話です。一部は重複しますが、とりあえず歴史をおさらいしてみたいと思います。

 さて、前世紀のことになりますが、中国における「モバイル」の概念や、高価な「携帯電話」の普及は見込まれておらず、日本のメーカーはトヨタや富士フイルムと同様に市場に出遅れる結果となりました。そこで一斉を風靡したのは、最初期にはエリクソン、その後には後に共々世界的な敗退という結果を迎えるノキアとモトローラ、他にもシーメンスや京セラ、ソニー、アルカテルなどが商品を提供しており、今とは違った意味で混戦状態にありました。OSもSymbianなどがせいぜいで、小さなディスプレイで頑張っていたものです。現在ではアップル以外にも華為や小米、魅族などの現地メーカーが大輪の花を咲かせていますが、その境目はやはりアップルによる怪物スマホ「iPhone」の登場が大きかったといえると思います。好奇心にあふれる中国の若者たちをはじめ、現在では多くの年齢層がまずスマホを選ぶようになっています(スマホの普及率は韓国がトップの88%、中国は74%、日本はなんと39%)。

 中国の若者は視覚の刺激に弱い、というよりも、人間の好奇心は視覚が最も優先されるように出来ていますから、マーケティングなどでは五感を利用する中、中国市場に直感的に優れている中国のメーカーなどは、その特性を一番よく利用しているように感じます。光を伴い目に訴え、触るとすぐ反応してくれるスマホは、せっかちに成りがちな傾向を持つ中国の若者には非常に受けたわけです。そして、なによりも大は小を兼ねるな中国の消費者には、ディスプレイがでかくて明るいほどウケるという特徴もあります(出すのが早すぎたDellの5インチディスプレイの当時にしてはでかすぎた携帯「ストリーク」は敗退しましたが)。

 そして何より、中国はインフラ整備が遅れていました。前回も書きましたが、特に西部では電話の敷設も不便で、電話を超える存在が技術と共に提供されると、それが異様なスピードで普及しました。基地局さえ建てれば、電話線の敷設が不要になるのですから、それは便利に感じたと思います。そして、それは初期にはポケベルの形で、少しお金の有る人から、最後は若者に普及しました。私も92年当時、ポケベルを使用していました。最初は数字だけ、その後「漢顕(漢字表示型)」と呼ばれる漢字表示型のポケベルが普及、そして、いつしかレンガのような携帯電話が一部の幹部や企業人に普及、そこから携帯電話は小型化の一途を辿り、デコード方式がアナログからデジタルに変換された1995年には、エリクソン製337やモトローラ製の携帯電話がまず登場、そしてこの20年で一気にスマホ盛りとなったわけです(かなり端折りますが)。せっかちな人々には、すぐに繋がることはとても魅力的だったのです。

 どこにいても電話が繋がるという、この便利さに浴した中国の人々は、ほぼ全てといってもいい位モバイル生活に飛び込んできます。アップル製品は少々高めですが、それを買うために何か月分もの給料を貯めたり、ある若者は腎臓を売るという暴挙にも出ました。アップルのマーケティング戦略は見事に成功し、今では地下鉄に乗ると、周りが全員6sを使っていることもざらに成りました。もちろん、国産の安いスマホも普及しており、そのせいで都市部でのスマホ普及は90%を超えるようになっています。そして、日本もそうなりつつありますが、生活は全てスマホ一つで成り立つようになりつつあります。

 さて、そんなモバイルプラットフォームを基礎に、私たちは生活しているわけですが、その一部は前回ご紹介したように、通販の形で我々の生活の利便性を高めています。そして、ここからが今回のお話なのですが、それら通販や生活を支えるバックボーンとして、ペイメントの技術、今流行の言葉で言えばフィンテックが今非常に速いペースで進歩を見せています。

 日本でもフィンテックに関する話題の絶えない今日この頃ですが、中国では以上のようなモバイル社会の中、ヒト・モノ・カネをどうして動かすかという社会の経済活動の中心が全て手の中に納まりつつあり、特に支払いに関しては、かなりの割合でスマホだけで済むようになってきています。

 画面をお見せしましょう。これから何度も紹介することになるWeChatには、WeChatPaymentと言われる機能があり、チャットをしながら日常生活に必要な料金の支払いができてしまったり(写真1)、店頭の端末にアプリが生成したQRコードをかざすことで、その場で支払いが済んでしまう機能もあります。他にも、タクシーを呼んだり、旅行の手配をしたりと、他者とのコラボで機能を広げています。また、おそらくみなさんもご存知ではないかと思うのですが、WeChatの会話の中でお捻り(紅包)を配るシステム、そのままお金を相手に渡すシステムなども「発達」しており、毎日無闇にお金が行き交う状態になっています。私などはサーバーの負荷などを気にしてしまいますが、ユーザーたちは「面白い」「刺激的」なものを求め続けるためか、どんどんと機能が増えています。

 

 また、銀行のアプリも日本より進んでおり、銀行としての預金や振込機能はもちろん、WeChat同様の買い物から、料金振替も手のひらでできるようになっています(写真2)。また、銀行の業務にも幅があり、証券口座とリンクしていたり、貴金属の売買ができたり、外貨の売買ができたりと、これまた様々な金融取引の機能が詰め込まれており、全部覚えるのは非常に骨が折れます。また、銀行はかなりの割合でWeChatと提携しており、WeChatのパブリックアカウントを開設しています。そこでは、取引ごとに1秒以内にリマインダーが飛び込むシステムがあり、私の場合はショートメッセージ、WeChat、時には銀行のアプリから「今いくら遣いましたね」とメッセージが一挙に3つほど入るので、モバイルPOSでのカード使用には非常に便利に感じています(取引が成立するとメールが入るので、二重決済がないわけです)。他にも日本でも使用可能なAlipay(支付宝)、UnionPay(銀聯)によるアプリなど、「遣うルート」が嫌という程用意されており、企業にしてみると取りっぱぐれのないシステムが構築されています。また、どちらかというと「あるだけしか使えない」デビットカードがメインであり、クレジットカードは確かに普及しているものの、それを逆手に取った詐欺も多く存在している為、銀行も慎重で、手続きが面倒ですし、何よりこうした手段を好む若者はデビットカードしか所有していないケースも多く、こうしたシステムの方が合っているということも言えると思います。そして、多分一番違うのは、こちらでは特に要求しなければ通帳が出ないという点かもしれません。もともとが記録をネットに頼るバーチャルな状態に置かれているのです(私がこの国に来たばかりの頃は通帳がメインでしたが、いつ頃からかカードだけの口座がメインになっていました)。

 その背景には、中国の各都市には全国から様々な人が集まり、毎日多くのお金を消費しているという点があります。これは推測でしかありませんが、これまで様々な踏み倒しを経験した業者らは、前払いを商習慣の基礎とし、掛け売りを余りしないという基本的な思考法を形成したのでしょう。そこでは、持っているだけで取引するデビットカードの方が合理的ですし、お金を遣う方も安心です。そして、一番お金を遣いたい若い世代などは、デジタルネイティブ世代ですから、スマホを隅から隅まで使い倒しており、この方が便利なのです。また、基本的に人間は怠け者ですので、手元でワンストップでサービスを受けられれば万々歳です。そうした生理的・社会的背景のもと、このようなバーチャル空間での支払いはこれからも発展していくのだと思われます。しかし、どれほどの規模のサーバーで処理しているのか、ちょっと興味深いところです。

 日本の銀行アプリは遣い難いです。私の場合LINEすら削除してしまっており、日本でもWeChatを使用している有様で、さらにそれで困っていません。携帯電話の料金も、手元で決済できてしまいますし、日本にいるときに何か必要なら、銀行振り込みを手元で済ませ、チャットで頼むこともできます。日本にはよく帰国しますが、こんな具合なので、時々どちらにいるのかわからなくなることもしばしばです。残念なのは、中国のカードで直接決済ができないことくらいでしょうか(これはもしかすると実現しているかも知れません。ご存知の方がいらっしゃいましたらお知らせいただければと思います)。

 私は家にこもりがちなので、家でそのような操作をよくしています。前回もお話ししましたように、こちらのアマゾンやJDの決済は、目の前でモバイルPOSを使って行われており、すべてがゆるーい網で繋がっている印象を強く受けます。そのゆるさから言えば、こちらの人々は、既にどこにいてもいい自由な状態に慣らされてしまっているのかもしれません。いつの日か、銀行の所在国を問わないこうした取引が実現したら、それこそ地球上のどこにいても同じように頼んだものが届き、出前で食事ができ、世界の野菜が届き、自分がどこのいるのかわからない状態で暮らせるようになるのかもしれません。もちろん、旅行に関しても、チケットからホテルまでモバイルで手配、決済もモバイルなのは当然のことになります。

 個人的には、そんな日が来ることを心待ちにしています。

※次回は「北京引きこもり指南③バーチャルな勉強法・MOOC」をお届けしたいと思います

向田和弘

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