第六章:民族と宗教

 1、中国の民族の概況

 中国は多民族の国で世界で最も人口の多い国でもある。総人口は約13.54億人。56の民族を持っている。

 これらの民族とは、漢族、モウコ族、ホイ族、チベット族、ウィグル族、ミャオ族、イ族、チワン族、プイ族、朝鮮族、満族、トン族、ペー族、トゥチャ族、ハニ族、カザフ族、ダイ族、リー族、リースー族、ワ族、シェー族、カオシャン族、ラフ族、シュイ族、トンシャン族、ナーシー族、ジンポ族、キルギス族、トゥ族、ダフール族、コーラオ族、チャン族、プーラン族、サラ族、モオナン族、シボ族、アチャン族、プーミ族、タジク族、ヌー族、ウズベク族、ロシア族、オウンク族、ドアン族、パオアン族、ユイクー族、ジン族、タタール族、トーロン族、オロチョン族、ホーチョ族、メンパ族、ロバ族、チノ族である。

 このほかに一部の識別されていない民族もある。

 中国では、漢族の総人口に占める割合が91.5%で、少数民族の人口は8.5%である。漢族以外の55の民族は人口が相対的に少ないため、「少数民族」と呼ばれている。これらの少数民族は主に中国の北西部、南西部、北東部などに分布している。

  

 2、人口500万人以上の民族

 2010年に行われた第6回国勢調査によると、人口が500万以上に達する民族は10あり、それは漢族、チワン族、ホイ族、満族、ウィグル族、ミャオ族、イ族、トゥチャ族、チベット族、モウコ族である。

 漢族

 中国の56ある民族の中で最も人口が多く、世界でも最も人口の多い民族である。現在の総人口は12.2億人に達する。元々は「華夏」と呼ばれた中原の地に暮らす原住民で5000年の文明史を持っている。その後、他の民族と徐々に同化、融合し、漢の時代から「漢族」と称されるようになった。

 民族言語の漢語は漢・チベット語族に属し、北方方言、呉方言、湘方言、贛方言、客家方言、ミン南方言、ミン北方言、粤方言の八大方言に分けられ、共通語は普通話という。漢字は世界で最も古い文字の一つで、甲骨文字、金文などが今の四角い形に徐々に進展した。その数は8万字以上に上るが、常用されている文字は7000字前後である。漢語は現在、国際通用言語の一つとなった。

 漢族の基本的な主食は穀物で、各種の肉類、野菜を副食としている。漢族はその長期の発展過程において1日3食の飲食習慣を身につけた。主食は大きく米と粉物類に分けられる。この他の穀物、例えばトウモロコシ、コウリャン、穀類、イモ類なども雑穀として、主食の一部とする地区もある。様々な条件の影響により漢族は異なるタイプの料理を作り出した。「南は甘く、北は塩辛く、東は辛い」は、漢族及び他の民族の好む味への総括で、湖南料理、四川料理、東北料理、広東料理などが代表的な8大料理である。

 酒と茶が漢族の主な二大飲料である。中国は茶葉の故郷で、世界で最も早い時期から醸造技術を発明した国でもある。酒文化と茶文化は中国で悠久な歴史を持っている。酒と茶のほか、一部の果物から作った飲み物も、異なる地区の季節毎の飲料である。

 チワン族

 中国少数民族の中で最も人口の多い民族。主に南方の広西チワン族自治区に集まり住んでいる。彼らの使用するチワン語は漢・チベット語族に属している。

 南宋の時代、漢字に基づき「土俗字」が創造されたが、使用範囲は広くなく、漢字の方がより多く使用されていた。1955年にラテン語に基づき、チワン語が作られた。1957年11月、周恩来元総理が主宰した政務院第63回全体会議で「チワン語方案」が採択され、合法な文字を持たないチワン族の歴史に終止符が打たれた。

 チワン族は中国南方の土着民族で、悠久な歴史を持っている。数万年前から先祖が中国の南方で生活をしてきた。1958年に広西チワン族自治区が設置された。

 主に農業に従事し、多くは稲、トウモロコシを栽培している。歌が好きで、チワン族の暮らす場所は、「歌の海原」と讃えられているほどである。

 ホイ族

 人口1058万人余り。主に北西部の寧夏ホイ族自治区に集まり住んでいる。彼らは全国各地の多くの場所に分散的に居住し、中国国内でも最も分布の広い民族と言える。ホイ族は、長い間漢族と一緒に生活しているため、大多数は漢語を使用しているが、他の民族と一緒に暮らしているホイ族はその民族の言語も話すことができ、一部のホイ族はアラビア語とペルシャ語に精通している。

 彼らの起源は7世紀に遡る。当時、アラビアとペルシャの商人が中国に渡り、東南沿海部の広州、泉州などの地に留まり生活していた。彼らは数百年の歴史を経て徐々にホイ族の一部となった。

 このほか13世紀初頭、戦争などで追われ中国西北部に遷移した中央アジア人、ペルシャ人、アラビア人も、結婚や入信などの形で漢族、ウィグル族、蒙古族と融合しホイ族が形成された。

 彼らはイスラム教を信仰し、都市部に限らず村落にもモスクを建立し、その周辺を囲むように住まう特徴がある。独自の飲食習慣があり、「回民」、「清真」の看板を掲げたレストラン、食品店はホイ族向けの店舗である。

 満族

 人口1038万人余り。全国各地に居住し、東北部の遼寧省に最も多く住んでいる。満族語はアルタイ語族に属している。長く漢族と共に生活しているため、多くは漢族の言葉を使用している。

 ウィグル族

 人口1006万人余り。ウィグルは自称で、団結と連合を意味する。主に新疆ウィグル自治区に居住し、少数が湖南省の桃源、常徳などに住んでいる。

 ウィグル語はアルタイ語族に属している。文字は、アラビアアルファベットを基礎とした表音文字である。新中国成立後、ラテンアルファベットを基礎に新文字が作られ、現在2つの文字が同時に使われている。

 ウィグル族はイスラム教を信仰している。

 ミャオ族

 人口942万人余り。貴州、雲南、四川、広西、湖南、南北、広東などに集まり居住している。使用するミャオ語は漢・チベット語族に属している。統一した文字は無かったが1956年に、4つの方言を元に統一した文字を作った。 

 ミャオ族は、中国の歴史の長い民族の1つで、4000年も前の資料の中に記載が残っている。戦争、飢饉、疾病また、過度生育、農地が不作になったことなどで移住を余儀なくされたため、ミャオ族は広く分布し、方言、服装、髪飾り、習慣が異なるようになった。

 イ族

 人口871万人余り。雲南、四川、貴州、広西などに分布する。言語は漢・チベット語系に属し6つの方言がある。中国で最も早く独自の音声文字を持つ。1つの文字が1つの意味を表し、その総数は1万字有る。常用文字は1000字でおよそ13世紀に誕生した。

 トゥチャ族

 人口835万人余り。湖南、湖北、重慶、貴州に集まり居住している。1957年1月に正式に単一の少数民族に認定された。言語は、漢・チベット語系に属し、独自の文字は無く漢文を使用している。

 チベット族

 人口628万人余り。チベット自治区、青海、甘粛、四川、雲南などに集まり居住している。チベット族は漢語の呼び方で、自称は博(bod)である。

 チベット族の文字は7世紀前期に作られた。4つの母音と30の子音からなる音声文字である。

 蒙古族

 人口598万余り。主に内蒙古自治区、新疆、青海、甘粛、黒龍江、吉林、遼寧などの省、自治区の蒙古族自治州・県に居住している。民族言語の蒙古語はアルタイ語系に属している。

 蒙古の名称の現われは、唐代の数多くある部族の一つで、発祥地はアルグン河東岸である。徐々に西へと遷移していく中、各部族間で人、家畜、財産を略奪し合い、終わりのない部族闘争が続いていた。1206年、テムジンが蒙古部族の王に選ばれ、ジンギスカン(成吉思汗)と名乗り中国を統一して、元の王朝を築いた。

 3、人口10万人以下の民族

 2010年の国勢調査によると、中国では人口10万人以下の少数民族は全部で19ある。タジク族、プーミ族、アチャン族、ヌー族、オウンク族、ジン族、チノ族、ドアン族、パォアン族、ロシヤ族、ユイグー族、ウズベク族、メンパ族、オロチョン族、トーロン族、タタール族、ホーチョ族、カオシャン族、ガパ族である。

 タジク族

 人口5万人余り。大部分が新疆の塔什库尔干に集まり居住している。塔什库尔干は石の城という意味で、古くからタジク族が世々代々居住しているところである。

 プーミ族

 人口4万2000人余り。主に雲南に集まり居住し、ほかの地方でも生活している。言語は漢・チベット語系に属し独自の文字は持たない。

 アチャン族

 人口4万人余りの雲南特有の少数民族、。隣国のミャンマーでも生活している。言語は漢・チベット語系に属し、2種類の方言がある。

 ヌー族

 人口3万7千人余り。雲南省に集まり居住し、隣国のミャンマーでも生活している。言語は漢・チベット語系に属し、独自の文字は持たず漢語を使用する。

 オウンク族

 人口3万人余り。内蒙古自治区に集まり居住している。言語はアルタイ語系に属し3種類の方言がある。独自の文字は無い。

 ジン族

 人口2万8000人余り。広西チワン族自治区に主に分布している。独自の言語を持つが大変複雑で、何系に属するか確定されていない。

 チノ族

 人口2万3000人余り。雲南特有の少数民族の一つ。1979年に正式に、単一の少数民族に認定された。主に中国西南部シーサンパンナー州の山中に集まり住んでいる。漢・チベット語族のチノ語を使用し文字は持たない。

 ドアン族

 人口が少ない民族の一つで2万人余り。雲南省に居住する。言語は南アジア語形に属し3つの方言がある。

 パォアン族

 人口2万人余り。大部分が甘粛省に居住している。言語はアルタイ語系に属し漢語を使用している。

 ロシア族

 人口1万5000人余り。新疆、内蒙古、黒竜江、北京などの地方に居住している。中国のロシア族はロシア語を使用し、漢語、ウィグル語、カザフ語も堪能である。外では漢語と漢語文字を使い、家庭内ではロシア語とロシア文字を使用する。

 ユイグー族

 人口1万4千人。甘粛省に居住している。文字が無く漢語文字を使用。

 ウズベク族

 人口1万人余り。新疆ウィグル自治区に居住している。新疆南部のウズベク族はウィグル族と一緒に生活しているため、ウィグル語とウィグル文字を使う。牧場地区ではカザフ族と一緒に生活しているため、カザフ語とカザフ文字を使う。

 メンパ族

 人口1万人余り。チベット自治区の東南部に居住している。文字は無い。チベット族と長く友好往来しているため、政治、経済、文化、宗教、信仰、生活習慣で密接な関係を持ち、チベット語とチベット文字が堪能である。

 オロチョン族

 東北地方に居住する民族の中で一番人口が少ない。新中国成立当時は1000人余りしかいなかったが、ここ数十年で人口の増加が加速し8600人になった。アルタイ語族のオロチョン語を使用。民族文字は持たず漢語文字を使用している。

 トーロン族(独龍族)

 人口7400人余り。雲南省貢山トーロン族ヌー族自治県独龍江流域の谷間地帯に集まり住んでいる。民族言語のトーロン語は漢・チベット語族に属している。文字は持たない。トーロン族の人々は万物には霊が宿ると信じ、自然を崇拝している。その民族呼称は『大元一統志』の麗江路風俗項目に初めて掲載され、当時は、「橇」(手偏の字)と称されていた。また彼らは、明・清時代には「俅」、「曲」と呼ばれていた。「独龍(トーロン)」は彼らの過去の自称で、新中国成立後、彼らの意志を尊重して決められた名称である。以前のトーロン族の人々の暮らしは生産力のレベルが低かった。

 原始的な木や竹で簡単な道具を作り、焼き畑農業に従事し、採集と漁猟が欠かすことのできない副業だった。1949年新中国成立後、トーロン族はようやくこのような立ち遅れた環境を根本的に変えることができた。トーロン族の人々は勤勉で客好き、友人を大切にし、村のどこかの家で何か有れば、村中の人々が一緒になって力を貸す。また、狩猟で得た獲物は参加したすべての人に分配する。人々は信義を重んじ約束を守り、素朴で優れた道徳観念を持っている。「道に落ちている物を拾う人もなく、夜も戸締りをする家はない」はトーロン族の伝統的な美徳である。

 ホーチョ族

 人口5300人余り。黒竜江、松花江、ウスリー江が合流する三江平屋に居住している。言語はアルタイ語系に属し文字は持たない。

 カオシャン族

 長期間漢民族と一緒に生活し、台湾島の建設や外来の侵略への抵抗、祖国の歴史と文化の営みに重要な貢献をした。独自の言語を持つが文字は無い。大陸に住んでいるカオシャン族は4000人余りである。

 4、中国の民族政策

 中国の民族政策は民族の平等を土台にし、各民族の団結と国家統一の遵守、民族地方の自治の実現、少数民族の経済文化事業の発展、少数民族の幹部と人材の育成、少数民族の宗教信仰と民俗習慣の尊重を基本的な内容とし、各民族の共同的な繁栄を出発点にしている。

 民族の平等は中国の民族政策の土台である。

 それを実現することは中国憲法の原則である。中国では、民族の平等に3つの意義がある。1つ目は人口の数、歴史の長さ、居住地域の面積、経済の発展状況を問わず、そして文字、言葉、宗教、信仰の違いに関わらず、政治的な地位では各民族が平等である。2つ目は、経済、文化、社会生活などの分野で平等である。3つ目は、法律上、各民族は平等であり、同じ権利を享受すると共に同じ義務を担っている。

 民族の団結は中国の民族問題の原則であり、中国民族政策の核心的な内容である。

 中国の民族問題は中国内部の事情であるため、中国政府は外部勢力が民族、宗教、人権を口実にこの問題に干渉することに断固として反対している。法律により、外部のテロリズム、分裂主義勢力、極端主義勢力が中国に対して行う破壊活動を打撃する。

 民族自治は中国が民族問題を解決するための基本的な政策であり、中国の基本政治制度の1つである。

 中国の民族自治制度は、国家の統一的なリードのもと、各少数民族が居住地で区域内自治を実施し自治権を行使する。2008年末、全国には155箇所の自治地方があり、その中には5つの自治区、30の自治州、120の自治県或いは旗が含まれている。

 民族自治地方の自治機構は自治区、自治州、自治県の人民代表大会と人民政府である。

 各民族の共同の繁栄と発展を堅持することは、中国民族政策の根本的な立場である。

 5、少数民族幹部の養成と選抜

 少数民族の幹部は少数民族の中の優秀な人物であり、中国政府は少数民族出身の幹部の養成を大変重視している。

 現在、少数民族出身の幹部は290万人となり1978年より3倍増えた。公務員の中の少数民族は9%を超えている。民族自治地方では自治区の長官、自治州の州長、自治県・旗の県長・旗長はいずれも、自治を行う民族の出身の幹部が務めている。

 6、中国の民族経済

 中国経済が絶えず発展していくに連れ、民族地区の経済も発展し、盛んになりつつある。

 中国政府は民族地区の実際の状況に合わせ、特別な政策と措置を取り、民族地区の経済を援助すると共に、既に経済が進んだ地区からの援助を促し動員し組織する。少数民族地区で計画性を持って重点的なプロジェクトを進め、経済構造を調整し、多種類産業を発展させて総合的な経済力を引き上げる。ここ数年、改革開放の深化と共に国家は少数民族への投資を増やし、少数民族地区の対外開放の歩みを速めることで市民の生活レベルをアップさせた。

 7、中国の民族教育

 教育は科学技術が進歩する上の土台でもある。中国政府は民族教育を発展させるため、一連の特殊な政策と措置を講じている。これには主に以下の事が含まれる。

 少数民族の教育事業を重視し支援する専門機構としての、民主教育管理機構の設立。少数民族と民族自治地方に自主的に民族教育を発展させる権利を与え、それを尊重する。各民族言語の教育及びバイリンガル教育(民族言語と漢語)を重視し、少数民族の文字、テキストの編成を強化する。少数民族教師の育成を強化する。少数民族と民族地区に対し、経費の面から特別な配慮を行う。民族地区と少数民族の実情に基づき、各種様々な民族学校を開設し民族地区の人材を養成する。学生募集の際や生活の面で少数民族の学生に適切に配慮をすること。経済の発達した地区を組織して民族地区に向けての支援を行う。少数民族地区では、幼児教育から高等教育まで整った教育システムができており、少数民族が教育を受けられる期間がはるかにアップした。2012年までに、全国各レベルの学校の少数民族の学生は2384万4800人となり、学生総数の9.27%を占めるようになった。北西、東北、南西部などの少数民族の集中的居住地ではいずれも民族大学が設立され、これらの大学から数千万の各民族の大学生が養成されている。

 8、中国の民族文化

 少数民族の文化を継承し発展させるため、各民族自治区、自治州は各地の実情に基づいて、相次いで地元の作家協会、演劇協会、舞踊協会、美術協会、撮影協会などの組織を立ち上げた。一部の少数民族自治地方の大学や民族大学は少数民族文学専攻を開設し、更に一部の地方では音楽学院、戯劇学院、電影学院などの芸術学校も設置され、数多くの少数民族出身の文学、芸術人材を養成してきた。また民族医学の分野ではこれまでに、チベット、内蒙古、新疆などでそれぞれチベット医学、モンゴル医学、ウィグル医学の学校及び一部の中等民族医薬専科学校が作られた。

 ここ数年中国政府は万里辺境文化回廊とのプロジェクトを実施し、少数民族地区の公共文化サービス体系を整備し、少数民族の文化生活を豊かにして改善した。2012年5月まで民族自治地方では、73のラジオ局が少数民族の言語の番組を105番組放送し、90のテレビ局が同言語の番組を100番組放送している。

 中国政府は積極的に少数民族の優秀な伝統文化を保護するため、500年の歴史があるチベット劇を保護、伝承した。蒙古族のナーダム祭、ホイ族、ウィグル族などのクルバーン祭、バイラム祭、チワン族の三月三日、ダイ族の水掛祭り、イ族のタイマツ祭りなどの伝統的な祭りやイベントが大きく伝承され高揚された。また290余りの民族伝統スポーツが発掘、収集、整理され、多くの少数民族の伝統芸術に再び活気が出てきた。

 また中国政府は巨大な資金を投入し、チベットのデプン寺、セラ寺、ガンデン寺、青海省のタール寺、新疆ウィグル族自治区のキジル石窟などの多数の全国重点文物保護建築を修繕した。今のところ民族自治区には、300箇所の全国重点文物保護建築があり、世界文化遺産にポタラ宮建築群、麗江古城などがあり、世界自然遺産には九寨溝、黄龍風景区などがある。

 9、中国の重要な民族祝日

 中国の少数民族には様々な祝日があり、ほとんど全ての民族にはそれぞれ重要な祝日がある。チベット族のチベット新年、ダイ族の水掛祭り、イ族のタイマツ祭り、ペー族の三月街(さんがついち)、チワン族の歌垣、蒙古族のナーダムなどがその代表例である。地方によっては地元政府が一部の民族の祝日を法定休日にしている。(チベット新年やクルパン祭など)

 水掛祭り

 水掛祭りはダイ族の新年行事で、シーサパンナ地区で最も盛大な伝統的な祭りの一つである。タイ暦の6月中旬頃に、3日~4日間行われる。新暦の4月13日から15日の間の3日間である。

 水掛祭りはインドに起源し、12世紀の末から13世紀の始め頃にミャンマーを通って、仏教と共に中国雲南省ダイ族の居住地区に伝来してきた。仏教のダイ族地区での影響が深まると共に、水掛祭りは民族の習慣として数百年間続いてきた。

 イ族のタイマツ祭り

 タイマツ祭りはイ族地区の伝統的な祝日で、雲南、貴州、四川などのイ族地区で行われる。ぺー族、ナシ族、ジノー族、ラフ族などの少数民族もこの祭りを祝う。旧暦の6月24日あるいは25日から始まり3日間続く。タイマツ祭りは最も盛大で参加人数が最も多く、民族の特徴が最も鮮明な祭りで、民族全員が集まる盛典でもある。

 チワン族の歌垣

 歌垣はチワン族が特定の時間と場所で行う歌のイベントである。規模の大きいチワン族の居住区全てで、春と秋に集中して行われる。春には旧暦の3月3日が最も多く、秋には中秋節が最もよい時期となっている。歌比べ以外に演劇、スポーツ、曲芸などの娯楽やゲームが行われる。

 クルバーン祭

 イスラム教の伝統的な年中行事で、アラビア語では「イード・ル・アドゥハ」と言う。「イード」は祭日で、「ル・アドゥハ」は犠牲を捧げることを意味するため、この日は「犠牲祭」とも呼ばれ、ホイ、ウィグル、カザフ、ウズベク、タジク、タタール、キルギス、サラ、トンシャン、パオアンなどイスラム教を信仰する民族の共通の祝日である。毎年、祭日(イスラム歴の12月10日)を迎える前になると、人々は家を綺麗に掃除し様々なお菓子を用意する。祭日の朝、ムスリムは体を清め香を焚き、衣装を正して、僧侶によるコーランの教えを聞くためにモスクへ行く。各家では羊やラクダ、牛をつぶし、友人たちに分け合い賓客をもてなす。皆で羊肉、菓子、果物を食べ親しく語り合う。新疆のウィグル族はクルバーン祭を祝う時、歌やダンスを披露する賑やかなパーティを開く習慣がある。カザフ、キルギス、タジク、ウズベクなどの民族は、祭日期間中、競馬やレスリングなどの伝統競技も行っている。

 小バイラム祭

 イスラム歴9月の断食月(ラマダン)が明けた頃の祭り。ホイ、ウィグル、カザフ、ウズベク、タジク、タタール、キルギス、サラ、トンシャン、パオアンなどイスラム教を信仰する民族の共通の祝日である。

 毎年、ラマダンの断食の日数は29日間~30日間である。ラマダン期間中、ムスリムは日の出前に飲食を済ませ、日が出た後は日中どんなに空腹でも飲食は禁じられ、禁煙も実施される。このほか、神アラーへの信仰心を示すため、性行為、私欲、邪念も一切禁じられる。これを「精進潔斎」という。子どもや病弱者、高齢者、または生理中の女性は斎戒を守らなくてもよいが、飲食を節制しなければならず、公の場で食べたり飲んだりしてはならない。病人、旅路を急ぐ人は斎戒を守らなくてもよいが、後日改めて断食するか懲罰と贖罪の代わりに財物を納めることが求められる。夜、精進潔斎の終わりを告げるモスクの鐘を合図に人々は飲食を始める。お腹を空かした見知らぬ旅人が突然訪ねてきても、家主は温かくもてなしをする。

 小バイラム祭はこの断食祭りが終わったイスラム歴10月初め頃に盛大に祝われる。人々は祭日の前から、家屋の塗り直し、庭の掃除、理髪と沐浴をして支度を整える。青年男女はこの期間を選んで結婚する人が多い。

 チベット新年

 チベット歴正月の1日から始まり約15日間ほど続く、チベット族にとって最も盛大で賑やかな民族的祭日である。チベット族は新年になると、夜明けと共に祝日の正装を身に纏った青年男女が互いに新年の挨拶を交わす。正装のチベット族の人々は近くの寺院へ初詣に行ったり、共に町に出かけて歌い踊る。ただし、親戚や友人の家を訪れることはタブーとされている。

 ナーダム祭

 内蒙古、甘粛、青海、新疆の蒙古族が年に一度祝う伝統的な祝祭日。毎年7月から8月にかけて、草原に水が増え、草が茂り、天高く馬肥ゆる時期に行われる。ナーダムは蒙古語では「レジャー」「ゲーム」を意味する。ナーダム祭には悠久な歴史があり、昔は祭りの期間中に大規模な祭祀活動が行われ、ラマ(チベット仏教の僧侶)たちが香を焚き松明を点し、経を読み上げ、仏を称え、神仏のご加護と無病息災を祈ってきた。現在のナーダム祭では主にモンゴル相撲や競馬、アーチェリーなどの伝統的な民族競技が行なわれ、一部の地方では陸上競技、綱引き、バレーボール、バスケットボールなどの試合も行われている。

 10、中国における宗教の現状

 中国は多宗教の国で、主な宗教は仏教、道教、イスラム教、カトリック教、キリスト教などがある。中国の国民は自由に信仰を選び表明することができ、宗教的身分を表現することができる。

 現在のところ、中国には宗教教職人員が36万人、法に基づき登録され開放された宗教の活動場所は14万箇所あり、信者の需要を基本的に満足させている。宗教団体は5500余りで各宗教の教務活動は秩序を守り展開されている。回復後、樹立された宗教学校は97校に達し、ほぼ完全な宗教教育体系が整っている。宗教経典、宗教雑誌などの宗教出版物が法に基づき出版、流通している。2012年までに聖書の印刷数が1億冊となり、世界一となった。

 全国的な宗教団体は中国仏教協会、中国道教教会、中国イスラム教教会、中国カトリック教愛国会、中国カトリック教主教団、中国キリスト教「三自」愛国運動委員会、中国キリスト教教会などがある。各宗教団体は各々の規定に従って選挙を行い、指導者と指導機構を選出し、自主的に教務を処理し、必要に応じて宗教大学を開設して宗教の経典を印刷し、雑誌を出版し、社会公益奉仕事業を展開している。

 11、中国の主な宗教

 仏教

 仏教は紀元前1世紀頃に中国に伝来し4世紀前後から広く伝わり、徐々に中国で最も影響力の大きい宗教になった。中国の仏教は大きく3つの言語によって分けられている。それは漢語系仏教、チベット語系仏教、パーリ語派仏教(又は南伝仏教とも言う)である。この三大語系の僧侶は全部で20万人に達し、現在、中国には開放された寺院が20000ヶ所ある。

 チベット仏教は中国仏教の分枝であり、主にチベット自治区、内蒙古自治区、青海省などの地に伝わっている。チベット族、蒙古族、ユイクー族、メンパ族、ロパ族、土(トゥ)族の人々がチベット仏教を信仰している。

 南伝仏教は主に中国西南部雲南省のシーサパンナダイ族自治州、徳宏ダイ族ジンポ族自治州、思茅地区などに分布し、ダイ族、プーラン族、アチャン族、ワ族の大多数の人が信仰している。

 漢語系仏教の信仰者の主体は漢族で、全国各地に分布している。

 道教

 道教は中国の土着の宗教であり、既に1700年余りの歴史を有している。道教は中国古代の自然崇拝と祖先崇拝を受け継ぎ、歴史上、数多くの流派に分かれていたが、後に全真道と正一道という二大教派に分かれ、漢族の中では一定の影響力を持っている。道教は厳格な入信儀式と教戒を持っていないため、信仰者の人数が正確に把握されにくい。現在中国の道教の寺院(「宮」、「観」と言う)は3000余り、「乾道」と「坤道」(道教の寺院に居住する男性僧侶と女性僧侶)の数は5万人余りに達している。

 イスラム教

 イスラム教は7世紀に中国に伝わった。中国のホイ、ウィグル、タタール、キルギス、カザフ、ウズベク、トンシャン、サラ、パオアンなどの少数民族の大多数はイスラム教を信仰している。中国のムスリムは2100万人を超え、大多数は新彊ウィグル自治区、寧夏ホイ族自治区及び甘粛、青海、雲南などの省に分布しているが、他の省や直轄市にも分布している。中国には現在モスクが3.5万ヶ所余り有りイスラム教の僧侶は4万人余りいる。

 カトリック教

 天主教は7世紀に数回に分かれて中国に伝わったが、その大規模な伝来は1840年のアヘン戦争以降のことになる。現在、中国には530万人近くの入信者がいるほか、教会・宣教会所は6000ヶ所ある。

 キリスト教

 キリスト教は19世紀始めに中国に伝わり、アヘン戦争後に大規模に広まった。1950年、キリスト教は自治、自養、自伝という「三自」運動を展開し、キリスト教界に帝国主義の影響を粛清し、愛国主義精神を培い、中国キリスト教の自治、自らの養成と伝道の実現に努力することを呼びかけた。中国には現在、およそ1600万人のキリスト教信者がいる。2012年までに中国で印刷された聖書は1億冊で世界一である。

 12、中国の宗教政策

 1949年の新中国成立後、中国政府は宗教信仰の自由という政策を策定、実行し、中国の実情に見合った政教関係を築いてきた。中国の公民は自由に信仰と宗教を選択し、それを表明することができる。各種宗教は平等な地位にあり、調和のとれた共存の下、宗教紛争が起きたことはない。また、宗教の信仰者と信仰しない公民の間も互いに尊重し合い団結して睦ましく共存している。

 『中華人民共和国憲法』では「中華人民共和国の公民は宗教を信仰する自由がある」「いかなる国家機構、社会団体及び個人も公民の宗教信仰または不信仰を強制してはならない」「国は正常な宗教活動を保護する」と定めていると同時に「如何なる人も宗教を利用して社会秩序を破壊し、公民の健康を害し、国の教育制度を妨害する行動をしてはならない」「宗教団体と宗教事務は外国勢力の支配を受けてはならない」としている。

 更に、中国の『民族区域自治法』『民法通則』『教育法』『動労法』『義務教育法』『人民代表大会選挙法』『村民委員会組織法』『広告法』などの法律では、公民は宗教信仰の有無に関係なく全て選挙権と被選挙権を持っていること、宗教団体の合法的財産は法律に守られていること、教育と宗教は分離し、公民は信仰宗教の違いに関係なく皆、法に依拠し平等に教育を受けるチャンスを持つこと、各民族の人々は互いに言語、文字、風俗習慣と宗教信仰を尊重すること、公民は就業する上で、信仰の違いにより差別を受けてはならないこと、広告、商標などに民族、宗教を差別する内容が含まれてはならないことを定めている。

 世界の数多くの国と同様に、中国は宗教と教育の分離の原則を実施している。国民教育の中では、学生に対し宗教教育を行わない。一部の大学と研究機構は宗教学の教育と研究を行い、宗教組織の主宰による宗教大学では各宗教の実際の需要に応じて専門の宗教教育を行っている。

 中国の宗教事業は各宗教団体、信仰者により行われ、中国の宗教事務と宗教団体は外国の支配を受けていない。中国政府は憲法と法律により中国の各宗教が独立かつ自主的に事業を行うことを支持している。

 中国の法律は、宗教信仰自由の権利を享受していると共に、法律が定めた義務を担うべきだと規定している。中国では如何なる人、団体、宗教も、人民の利益、法律の尊厳、民族の団結、国家の統一を守るべきである。これは、国連の人権文書・公約の関連内容と一致している。

 中国政府は、宗教を利用して人民と国家を分裂させ各民族の団結を破壊する民族分裂主義や、宗教を利用して違法活動やテロ活動を行うことに断固として反対し、国家の統一と少数民族地区の社会の安定を堅く守り、少数民族の宗教信仰者の正常な宗教活動を保護する。

 中国政府は、国際社会が信仰において公認している原則を尊重し、この原則を各国の具体的な状況に合わせながら自国の法律により実施すべきだと認識している。中国政府は宗教分野での対立に反対し、宗教を利用し他国の内政を干渉することに反対する。

 13、宗教の対外往来

 中国の仏教、イスラム教、カトリック教、キリスト教はいずれも外国から伝来した宗教で、これらは世界的な宗教として国際的にも重要な地位を持ち、多くの国と地域で数多くの信仰者を有し、中には一部の国では国教とされている宗教もある。

 新中国成立後、宗教界の対外往来が絶えず展開され、各種宗教は外国の関連宗教と幅広く交流活動を行ってきた。例えば、中国の舎利はタイ、韓国などでも祭られいてる。中日韓の3カ国は定期的に仏教友好交流会を行っている。「海峡両岸仏教音楽公演団」は台湾、香港、マカオとアメリカ、カナダで公演している。一連の大型宗教交流活動は、中国宗教界の良好なイメージを示し、中国の信仰の自由と平和な世界作りの主張を知らしめ民間交流を促している。