イラクのクルド人勢力であるクルド民主党とクルド愛国同盟、およびシーア派のイスラム最高評議会とダワ党は16日、新たな連立勢力を発足させることで一致し、その合意文書に調印しました。
イラクのクルド人勢力のクルド愛国同盟の指導者でもあるタラバニ大統領、クルド民主党のバルザニ党首、シーア派のイスラム最高評議会の指導者を務めるアブドルマハディ副大統領、それにダワ党党首でもあるマリキ首相は16日、共同で記者会見し、この4党によって新たな連立勢力を発足させると発表しました。
タラバニ大統領はその際、「新たな連立勢力の発足は、国全体の情勢を基に、イラク国民の利益を表わしている。これは、イラクの政治プロセスを推進するための各党派の共同作業に役立つ」と述べました。また、マリキ首相は、これを現在のイラクの政治危機を緩和するための第一歩を踏み出したと評価した上で、「この連立勢力は、イラクの政治プロセスを支援するすべての宗派と勢力の加入を歓迎する」と述べました。
マリキ首相のいう「政治危機」とは、スンニ派の有力会派「イラクの調和」、「イラク国民名簿」、それにシーア派の強硬派サドル師に所属する17人の閣僚が、マリキ政権から離脱したり閣議をボイコットしたりしたことにより、マリキ政権が窮地に陥ったことです。これを受けて、マリキ首相は各勢力の指導者を要請し、13日から会議を開き、クルド人勢力とシーア派による新たな連立勢力を組むことを決めたのです。しかし、世論は、この連立勢力が、イラク政府を窮境から救い出すは、いまのところ難しいと見ています。
その理由として、まず、この連立勢力には、マリキ政権から離脱した「イラクの調和」、「イラク国民名簿」などの勢力が加わっていないため、この連立勢力は、政府の危機の緩和には実際の意味はないことです。マリキ首相はもともと、13日からの会議で、スンニ派の会派「イラクの調和」がマリキ政権に復帰し、この新たな連立勢力への参加を狙っていましたが、結局は、実現できませんでした。つまり、この連立勢力の発足は、シーア派とクルド人勢力との関係の強化にしか役立たないのです。
次の理由は、この連立勢力が、国民議会で半数以上の議席を獲得できるかどうか、また、マリキ政権の政策が議会を通過できるかどうか、まだ予測がつかないことです。この連立勢力は、これまで広範な支持を得ておらず、一部のシーア派とクルド人勢力からなる同盟に過ぎません。そしてこの連立勢力は、国民議会の276議席のうち96議席という半数以下に過ぎないということです
これ以外の理由としては、この連立勢力の政治的基盤はまだ弱く、クルド人勢力とマリキ政権との間には依然として食い違いが残っていることが挙げられます。クルド自治政府は、マリキ政権が提出した「石油法案」に反対したことがあり、また、いまは石油と天然ガスなどの自主的配分を目指した地方石油法案を作成しているとされています。ですから、この新たな連立勢力は、政治プロセスの推進と外国軍隊の駐留継続では合意に達したものの、石油と天然ガスの配分問題ではなおも大きな相違があり、いまは、この相違はそう簡単には解決できないという状態なのです。
したがって、この新たな連立勢力によって、いまのイラクの政治危機を緩和するのは難しいでしょう。
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