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天児 慧早稲田大学教授

2009-01-13 17:28:01     cri    

アジアの未来と中日の役割

     日本と中国 率直に物事が言い合える関係になれ
アジア共同体 楽観的な姿勢を忘れずに

 中国研究者として名をはせている早稲田大学アジア太平洋研究科の天児慧教授。中日関係の現状をどうとらえているのか。昨年末、学会のため訪中したのを機に、天児教授へのインタビューが実現した。「本当に良い中日関係とは、互いに率直に物が言い合える関係だ」という氏の信念は変わらず、違いを乗り越え、中日関係を軸とした「アジア共同体」の実現に夢をはせる。時にはやさしく、時には厳しく、熱っぽく明日の世界を語った。

■日中関係こそかなめなのだ

Q 中国と日本の関係を世界においてどう位置づけていますか?

A 日中関係が"关键"(かなめ)なのです。日中関係が良くなるというのは、相互理解ができて、互いの悪いところ、良いところが客観的に認識できて、それで協力し合う関係ができたたら、これが世界を動かし、今までの歴史を変える力になりますよ。パワーがあるんですから。

 世界史というのは、1世紀とか2世紀とか、そう大きな流れで変わっていきます。中国はかつて四大発明の国として、世界にも影響を与えましたが、近代になってから、西洋の文化とパワーが大きな意義を持つようになりました。

 これからの中国の発展のためには、世界と協調の取れる関係を築かなければなりません。今、中国は強い力を持つようになりましたが、一方では、弱い部分も増しています。そこのところを、中国人が十分認識しなければだめですよ。

 中国の脆弱な部分を強化するには、良好な国際関係がないとできません。国際関係を重視すればするほど中国は強くなりますが、逆だと、中国自身が内部で作り出した深刻な問題が解決できないと思います。そうした中で、パワーポリティックスの色彩が強いアメリカとの関係とは違って、日中関係こそお互いにとっても非常に大事なのです。

Q 去年、中国人の対日イメージに改善が見られたにもかかわらず、日本人の対中イメージは国交正常化以来の最悪を記録したというアンケートがありました。

A 中日関係は今まで、トップレベルか経済界の関係が中心でしたが、今は民間交流という新しい時代に入りました。この傾向が、少しずつ日中関係の全体に反映するようになりました。

 去年、両国首脳は頻繁に会談を行い、胡錦涛主席と温家宝首相がそれぞれ日本を訪問していたにもかかわらず、日本人の対中イメージが悪化しました。それは今まで考えられなかったことです。小泉さんの時代までは、両国のトップレベルの交流が良くなったら、両国関係も良くなり、逆だと関係も悪化してしまいました。だけど、今はもちろんトップレベルも経済界の交流も大事ですが、それよりも民間レベルの関係、日常生活をめぐる中国の問題というのが非常に大事になってきました。

 1980年代の日本では、中国は「一番親近感を感じる」国でした。しかし、当時、多くの人は実際の中国人を知っているわけでもなく、自分たちが作ったイメージに基づいた好感でした。それが、近年、直接交流が増え、それにつれ、食品安全や歴史認識、スポーツマナーなど数多くの問題がクローズアップされてきました。例えば、ギョーザ事件はいまだに結論が出ていませんが、それが今度、別の食品の問題も相次いで摘発されました。そうしたこともあり、日本人にとって、中国はまじめに対応していないので、信用できないというイメージが生まれてしまいます。

 一方、中国人の対日感情の好転も直接交流が増えたことによります。今まで、日本と直接付き合えた中国人は、限られた範囲でしたが、それが最近、中国に進出した日本企業の活動や、もしくは、四川大地震での出来事などを通して、多くの中国人が「日本人が結構、頑張ってくれているのね」、「これまで思っていたイメージとちょっと違っている」、と思うようになり、イメージの好転につながったと見ています。

Q 両国国民の相手を見る目は、今後はどうなっていきそうですか。

A ぼくは楽観視しています。双方の相手を見る目は今は、プロセスに過ぎません。中国は、インターネットの普及により、民間の発言の場が拡大されつつありますし、中国人と日本人が率直に、自由に、意見交流できるようになったことは、日中関係の大事な要素になってきていると思います。やっぱり、国民が普通に考えていることや、色んなことから感じた感情を無視してはだめなのです。両国の国民感情は、今のプロセスを経て、きっと数年後に非常に良くなると思います。

Q 「良い関係」とは何か。

A お互いに率直に意見が言い合える関係です。それは個人レベルだけでなくて、国レベルでもできるようになってほしいです。本気になって付き合って、互いに理解しあえる関係こそ本物なのです。

 日中の付き合いというのがぼくが非常に不思議だと思っていることは、互いにフィーリングで理解できることです。ぼくは中国の友人と話をすると、自然と本音で話をしています。それが、ぼくとアメリカの友達とはなかなかできないことです。ぼくはアメリカが嫌いというのではなく、そこに大きな文化の差があるので、なかなか分かりにくい部分があると感じているからです。

■ アジア、世界の牽引力になれ


Q 「アジア共同体」の問題意識にいつ目覚めましたか。

A ぼくは学生時代から、日本の自由民権運動とその後のアジア主義に非常に興味を持っていました。最近になって、国境の壁が低くなりつつあることも感じていますし…

 1992年、ヨーロッパでECが発足しました。これを受け、日本のある新聞社が「ECに対してACは可能か」というテーマで座談会を開きました。メインゲストが私で、中国本土や台湾、韓国、フィリピンなどアジア各国の東京特派員などが参加しました。

 席上、私の発言に韓国の記者は「日本人にはアジア共同体を語る資格がない。それをどう反省しているのか」と激怒し、ほかの参加者もみな、同じ反応を示しました。もしかして、私の説明不足もあったかもしれませんが、当時はそういう雰囲気でした。だから、「アジア共同体は日本人には語れない」とその時に思いました。それが、今では状況が打って変わって、中国と韓国から東アジア共同体を語るようになっています。

 こうした変化が何故起きたのか。よく言われることは、経済的に依存しあうようになってきたことです。しかし、経済の力だけでは本当の共同体になりません。やはり、相互信頼とアイデンティティの創出がポイントだと思います。

Q 何故、アジアに共同体が必要だと考えたのですか。

A 世界レベルで考えると、アジアはあまりにも分裂しています。本当は、アジアの国はそれぞれ力量を持っているのだけれど、皆、ばらばらだから、世界の中で欧米ほど影響力が持てないのです。

 中国では今、「中華民族の偉大なる復興」という言葉をよく聞きますが、この言葉の中国における重要性はよく理解できますが、視点を変えれば、それで喜んでいたらやはり限界があると思います。

 どれだけ先になるか分かりませんが、ぼくはやはり、アジアがある意味で世界をひっぱる力になる必要があると思います。そういう意味で、アジアの中では国境を越える意識をもってほしいです。そのため、相互に助け合うメカニズムを作らなければならないと思います。意識的に互いの長所を認め合い、それぞれの得意分野でリーダーシップを認めあうようにしてほしいと思います。

■大事なのは人間の意志なのだ

Q 共同体ができると、アジアの人はみな、アジア人としてのアイデンティティを持つようになるのですか。

Aそれは分からないですね。アイデンティティは別に一つに限る必要はありません。いろんな重層的なアイデンティティを持って良いわけです。例えば、ぼくは岡山県生まれですが、岡山県人でありながら、日本人であり、アジア人で、地球の住民でもあります。アイデンティティは最終的に一つである必要はない。キリスト教を信じている人と、仏教を信じている人とか、色々あるわけじゃないですか。ぼくはアイデンティティを問題にすることはありません。大事なのは、ネーションステート(近代国家論)があまりにもネーションアイデンティティにこだわり過ぎていることです。

Q  アジア共同体ができると、日本にとってのメリットは?

A 日本のメリットとか中国のメリットとか、そういう次元の話ではありません。どちらのメリットが一番大事だという議論をすると、いろんな対立が生まれました。尖閣諸島(中国名:釣魚島)がその一例です。ぼくはやはり、今、国境という概念が作り出したいろんな問題をを解決することが大事だと思います。エネルギーの問題、領土や領海の問題など、私の解決案というのは、どっちかが主権ではなく、どっちも主権があるという主張です。主権の概念自体は歴史的なものですし、主権は両国にあり、互いに相手を尊重し、どうやって管理するのか方法を相談すればよいと思います。

Q 最近、日本国内では、アジア共同体の議論に後退論が出ているようですが…

A アジア共同体は構築のプロセスにあります。プロセスというのは、必ずずいろんな選択肢があるわけです。それ自体が、必然的にこっちに行くということはありえません。プロセスだという前提の下に、私たちがどれだけ努力できるか、つまり、歴史を変えていく人間の主体性という問題でもあります。

 「ぼくは楽観です」と意識した瞬間に、そういう方向に自分を主体的にもっていくためには、どう努力すればよいかということが問われます。悲観的な人はもしかして、「自分の主体性もあまりたいしたことがないから、私は悲観だ」と言っているだけで、それ自体が間違っていないかもしれません。だけど、それを客観的にみれば、悲観になるようなプロセスもあれば、楽観になるプロセスもあるということです。

Q 不確定さがあるということですか。

A 歴史の先なんて、不確定なものに決まっています。だけど、後から見れば、確定的なものに見えますが。ここが微妙なところなんです。天気予報だって、明日ならある程度予測できます。けれど、半年後、1年後、10年後の天気について、いくら衛星を使って、何十年分もの気象データを蓄積して分析したって、あたらないですよ。つまり、不確定要素が新しくできるわけです。

 今の日中関係にはいろんなファクターがあります。「だから、日中関係はよくなる」とか、「だから、悪くなる」とかいろんな解釈があります。だけど、それはあくまで我々が今、知りえたファクターを中心に分析したものです。来年、再来年に、新たしいファクターが必ず出てきます。

 例えば、世界的な経済恐慌と四川の大地震は、誰が予測できたことでしょう。今の日中関係を考える上で、この世界経済恐慌のファクターというのがものすごく大きいですし、四川大地震も日中関係のある部分を変えたわけです。

 歴史の未来というのは、つまりそういうことなのです。大事なのは、それを理解した上で、自分がどういうスタンスを持ってこの問題に取り組むことです。

Q 共同体の完成までにどのぐらいの時間がかかりそうですか?

A そんなことは言う必要のないことです。人間の努力次第のことで、見通しを立てることができません。そもそも実現が困難な問題なので、大事なのは人間の意志です。そして、そういう意志を持つ人を増やすことです。

■ 中国人:相手を配慮しよう
  日本人:ポジティブに行動せよ

Q 今、両国の人々にそれぞれ一番伝えたいメッセージは?

A 道徳的な議論をしたくないですが、中国は問題を膨らませながらも、影響力が間違いなく増してきています。人間の生き方も同じですが、こういう時にこそ謙虚に生きて、相手に配慮するということを大事にしなければなりません。

 今、中国は「和谐」(調和)をキーワードにしていますが、調和の取れる世界で一番大事なことは、自分が上に立つ意識を抑制することだと思います。

 一方、日本にはもっと元気を出して、挑戦する気概をもって積極的に頑張ってほしいです。今の日本は、元気がなさ過ぎます。みな内向きになってしまいます。これは、一人の人間の生き方もそうですし、家庭、地域、ひいては、国家にも見られる傾向で、日本は今、重層的な内向きな構造が見られます。

 ぼくは苦しい時に良く自分に言い聞かせたことは、「日本って環境が素晴らしいですよ!」ということ。自然環境にも生きる環境にも恵まれており、食べものも豊富です。しかし、日本人は自分たちが恵まれていることが分からなすぎます。失敗してもよいから、もっとポジティブにいきようと、そういう気持ちを持って頑張ってほしいです。

■ アジアの若者:世界的な視野を持とう

Q 天児ゼミには中国人留学生を始め、アジア各国から学生が集まっているようですが、若者たちに期待することは。

A 日本の若者と比べますと、今の中国の若い学生は非常に積極的ですよね。自分たちの世界をどうするかとか、未来をどうするということを前向きに考えている人が多いです。それは、もう日本人の教師として、"遺憾ながら"認めていかなければなりません。ぼくはそういう学生を育てることを通して、「中国人しての自分が」という意識を、というよりも、それを超えた何かを身につけてもらいたいです。 

 もし、それは中国人として成長することは国内で十分できること、べつに天児と接触する必要もないわけです。私との接触で刺激を受けることは、その学生自身が思い切って成長して、影響力のある人間になってもらうことを期待しています。それは、別に日本人になってもらって、日本を好きになるという話ではなく、自分の視野を中国だけに限らないで、もっと広い視野で世界が見れる人間になってほしいことです。

 中国人の若い学生にはそういうポジティブな面がありますが、ぼくは同じことを日本人、韓国人、マレーシア人、ぼくのところに来たすべてのアジアの学生のみなにもってもらいたいです。そうすれば、初めて次ぎの世代のアジアが考えられると思います。(聞き手:王小燕)

【プロフィール】

天児 慧(あまこ さとし)
早稲田大学大学院教授(中国政治、アジア現代史、アジア国際関係論)

1947年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。一橋大学大学院博士課程修了。 社会学博士。琉球大学助教授、青山学院大学教授などを歴任。外務省専門調査員として北京の日本大使館勤務などを経て、現在早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授

主な著書・共著
『中国――溶変する社会主義大国』(東京大学出版会, 1992年)
『中華人民共和国史』(岩波書店[岩波新書], 1999年)
『中国とどう付き合うか』(日本放送出版協会, 2003年)
『巨龍の胎動――毛沢東vs鄧小平』(講談社, 2004年)
『中国は脅威か』(勁草書房, 1997年)
『等身大の中国』(勁草書房, 2003年)…
  2006年 『日本人眼里中国』を中国で出版
    (日本語タイトル「日本人の見た中国」, 中国社会科学文献出版社)
訳書に『中国外交の新思考』(王逸舟著、東京大学出版会, 2007年)など

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