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早稲田大学元総長・西原 春夫氏に聞く

2008-11-30 16:36:35     cri    

アジアの地域統合と中日の役割 

早稲田大学元総長、アジア平和貢献センター理事長西原 春夫氏に聞く

 グローバリゼーションの加速により、世界の一体化が進んでいます。中国と日本の関係もこれまでの二国間関係から、世界の視野で見なければならない場面が出てきました。変化し続けている世界情勢を前に、中国と日本はどのような関係を築けばよいのか、未来のアジアはどこに向かっているのか。西原氏は1時間半にわたり、将来の青写真を披露してくださいました。
 「地域共同体は人類社会の必然だ。中日両国が手を携えて、人類の幸福に貢献することが歴史の流れでもある」。そして、21世紀の共同体は、単なる経済利益のためだけでなく、人類は全面戦争ができなくなり、世界の平和にもつながると確信を見せています。
 取材記事整理中、日本で自衛隊幹部による論文問題が発覚しました。「日本人は過去の歴史を決して忘れずに、そして、それについて心を痛むべきだ」、という西原氏の言葉が蘇りました。

■地域統合は社会発展の必然

記者 そもそも、どのような問題意識から地域統合を考えていますか。

西原 1995年ー1998年、ボンでの滞在をきっかけに、私はEUのような共同体は欧州特有の現象なのか、それとも人類社会の必然なのかをずっと考えていました。 
 アジアにも「ヨーロッパ共同体」のようなものがいずれ必要になると私は思っています。科学技術の発達につれ、人、もの、お金、情報、技術、犯罪など様々なものが大規模に国境を越えて移動するようになりました。これに伴い、多数の国家間で複雑な利害対立が起き、これを解決するには、何らかの共通性のある地域が協力して、緩やかな協議から、だんだんと共通ルールを作っていく。それがだんだん強く、大きくなると共同体になります。こうした流れは、必然の現象だとヨーロッパ滞在中に痛感しました。現段階は、何年までに共同体を作ろうという時期ではありませんが、歴史の成り行きでそうならざるをえないことをまず認識しておく必要があると指摘したいのです。


■ どう向き合うか、日本のアジア侵略の歴史

記者 アジアは統合に向けて、近代史をどう乗り越えたほうが良いでしょうか。

西原 まず、私は、日本のアジア侵略を世界史という大きな流れの中で考えてみることが必要だと見ています。19世紀、欧州発の先進国の国家観は、権利と自由、議会制度、民主制度などという良い面もあれば、   植民地支配を内容とする帝国主義という流行病も持ち合わせていました。日本は明治維新により、体裁上、近代的な国づくりに成功しましたが、すぐにこの流行病も身に付け、武力でアジアを侵略する道に走りました。ただし、流行病とは言え、日本は過去のアジア侵略について責任は免れません。しかし、一方で、これは当時の時代背景の下で起きたことだったとアジアの人々に認識してほしいのです。
 この流行病は、二回にわたる世界大戦の終結と共に、天然痘のようにすでに絶滅しました。その後、欧州に共同体ができ、世界でも60数年にわたり先進国どうしの全面戦争が起きていません。今、各国は経済が複雑に入り組んでおり、いざ戦争でも起きれば、すべての国が互いに損することになっています。なので、日本がかつてのような帝国主義をまた復活させ、中国を侵略すると考えることは、まったく現実的ではありません。まず、アジアの人々に、大きな歴史の流れの中でこうした時代の変化を見直して頂きたいと思います。

記者 では、日本人として、歴史をどう見つめればよいとお考えですか。

西原 私は、過去の問題について、日本の国民として、きちんと清算しなければならないと主張しています。
     終戦時、私は17歳で、軍国少年でした。当時の軍国主義教育を受け、日本は正義の戦争をしていたとばかり思っていました。その私は今年で80歳です。つまり、今の大部分の日本国民は直接個人として戦争に責任がありません。ただし、そうかといって、戦争について何も関心を持たなくて良いのか、私はそう思いません。
 確かに、侵略戦争の責任人は、究極的に戦争指導者にあると思います。しかし、一般の日本人として、先輩が中国やアジア諸国に損害を与えた事実を忘れてはならないと思います。日本軍隊のやったことを認識し、直視し、その被害について胸を痛める。そして、その気持ちを相手に伝えれば、許して頂けると思います。これが、戦後60年以上経った今のやるべきことです。その上、かつての日本のアジア侵略の背景を歴史の大きな流れの中で理解し、また、その歴史の延長戦上で、日本と中国は手をとって協力しなければならない立場にあることを認識してほしいと思います。
 福田前首相と胡錦涛国家主席が5月に締結した共同声明では、単に日中が仲良くなるばかりではなく、両国が協力して、アジア、あるいは世界の平和と発展に貢献すべきだと述べていました。私はこれが非常に正しいことで、そうなるべきだと思います。


■地域統合は世界平和につながる

記者 アジアは統合に向けて、どのような段取りがあるとお考えですか。

西原 まずは、条件が整ったところから、共通のルール作り、例えば、食品安全や知財保護など、問題ごとに取り組み、それをだんだんと広げていけば良いと考えています。
 今、東南アジアには、10カ国の加盟による「ASEAN」がありますが、北東アジアにもある種の協議機関が必要だと私は思います。一番最初は日中韓の協議機構から始まるのが、今のところ、自然の流れだと思います。当分の間は、事務所をおかずに、東京、北京、ソウルと持ち回り、対等平等の立場を行動で表すことが良いでしょう。だんだんと条件が整ったら、北東アジアから東南アジアとの融合をはかり、その次に、インド、中央アジア、南アジアなどアジア全域へ。さらにオセアニアとの統合も。つまり、北東アジア、東アジア、そして、アジア、オセアニアへと発展することになるだろうと見ています。
 アジアで共同体ができるのは、私は21世紀後半になると見ています。アジアには様々な宗教や国家体制があり、共同体の設立について、ヨーロッパほど共通条件がないことは認めます。決して急いではなりません。ただ、歴史がそういう方向に向かっていることを認識しておく必要があります。共同体の設立は、ただ経済利益のためだけではなく、人類が戦争をしなくなるためにも必要で、国際的な平和にもつながっています。

記者 アジア共同体の議論をする際、ヘゲモニーのことがよく議論されていますが…

西原 影響力の強い一つの国が指導的役割を演ずると誤解を招くので、複数の国が組んで、対等平等な立場で、一種の協議機関からスタートするのが一番現実的だと思います。ヨーロッパの場合、EU本部をベルリンかパリにではなく、ベルギーという第三国に置いたため、大成功したと思います。東アジア共同体の前段階に当たる協議機関も事務所が必要な時は、ソウルかシンガポールあたりが良いでしょう。決して、北京と東京におくべからず。ここは譲らないとだめだと思います。

記者 近代以降、日本はアジア唯一の先進国として、成長し続けている中国に心理的なプレッシャーを感じているのでしょうか。

西原 中国が強くなるのは自然の成り行きです。かつて、日本で留学というと、長安(現在の西安)に行くことでした。中国は近代になって一時的に遅れていましたが、歴史は流れる方向に流れていきます。
 今、発展を遂げていく上で、自然災害や世界金融危機など、様々な問題もありますが、中国はこれらの問題をうまく処理し、発展した場合、たいへんな大国になり、世界に影響を与えることは言うまでもないわけです。日本人としては、かつて自分が上だったのに、追いつかれたという一種の劣等感のようなものを感じるのは、今のような状態を前提にするからなのです。歴史の流れの中で見ると、国の意義はどんどん変わっていくものだと思います。
 アジアの統合が進んでいくと、13億対1億というのではなく、そのような流れの中でこうした心理もだんだんと解消していくでしょう。同じアジア人として、それぞれの独自性、特色を発揮しながら付き合うことになると思います。

記者 世界の究極の将来像は。

西原 国境の壁がどんどん低くなり、世界は合衆国になり、国連は地域共同体の協議機関になります。22世紀の世界は面白い。各民族の文化の独自性はむしろ強まり、差異を認めつつも、一つの地球人になることでしょう。(聞き手:王小燕)

■【西原春夫氏プロフィール】

 元早稲田大学総長    法学博士
 アジア平和貢献センター理事長

    1928年         東京生まれ
 1982~1990年    早稲田大学総長
    1995~1998年 
早稲田大学ヨーロッパセンター(ボン)館長
     2005年~   アジア平和貢献センター理事長

 早大総長在任中から、中国からの留学生受け入れ、中国の法律界との学術交流を重視。『刑法の根底にあるもの』など多数の著述は中国でも翻訳出版され、中国が刑法体系を整えるのに参考になっている。中日関係に対しても、数多くの提言をしている。

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