「これからの中日交流を支える若者たち」、今回は、先週『日本への応援歌』を提供していただいた台湾出身のアーティスト、リュウさんとこの唄に秘められた想いについてお届けしたいと思います。
遠くあなたへ |
わずか2分ほどの短い旋律と、シンプルな歌詞。
しかし、そこから伝わるものは、この唄を聴けば誰もが感じるだろう。
アーティスト・リュウは、日本生まれの台湾人。
現在は映画監督を目指してクルーでの仕事を引き受ける傍ら、こうして曲を作り、唄を書いて過ごす。
日本での生活を経てアメリカに渡ったリュウの曲には、英語の歌詞で創られた唄と同じ量の日本語の唄がある。
バンドか何かを組んでいるのかと思いお話を聞くと、答えは「ノー」。
ただ一人で黙々と、コンピューターを駆使してこうした音源を作っているのだそう。
作詞、作曲、録音から編集まで、全て一人でこなす。
この曲はもともと、若くしてこの世を去った伝説的なラッパー・M80を想う気持ちを載せた唄だった。
M80は、リュウの1歳違いの従兄弟だ。
中華圏において絶大な人気を誇る今は亡きM80を、リュウは今でも「兄者」、そう呼んで慕っている。
(M80:22歳の若さで癌に侵され、この世を去った。チャイニーズ・ラップの先駆者とも呼ばれ、中華圏の音楽業界で絶賛されている。遺作となったアルバムの制作には日本からもアーティストが参加した。『M80』とは元来小型爆弾の名称で、小型ながらも強大な威力を持つ。M80は自身が小柄であったことから、『小柄でも大きな威力を持つアーティスト』という意味が込められており、彼の誇りを反映している)。
今回の震災には、日本生まれのリュウも心を痛めていた。
親戚は今も日本に住んでいる。
震災後しばらく連絡がつかず、動揺を隠せなかった。
その後無事を確認できたが、今回の震災を他人事とは思えなかった。
リュウとの出会いは偶然だった。
いや、このタイミングでこの唄に出会えたことは、偶然という名の必然としか思えない。
「これからの中日交流を支える若者たち」シリーズのスペシャル企画で俳優・澤田拳也さんを取材するために、香港出身の爾冬陞(イー・トンシン)監督のクルーが滞在している懐柔区(北京郊外)のスタジオに出かけたその現場で、リュウと出会った。
不思議なムードを身に付けた青年だった。
アルコールやジュースを好まないリュウは、いつも片手に小さなポットを抱え、良い香りの立つお茶を静かにすすっている。
口数は少ないものの、その内に清然とした情熱を抱くアーティスト・リュウ。
その彼が遠慮がちに差し出したこの曲を聴いて、その場にいた誰からとも無くこんな声が上がった。
「この唄を、日本への応援歌にできないだろうか?」
そしてその言葉を聴いた誰もが、同じ事を考えていた。
日本で生まれたリュウは、その後アメリカへ渡ったものの、今でも日本語を当たり前のように話す。
「日本は僕の故郷の一つでもあるから」。
リュウはそう言って、普段人に聴かせることの無いというこの曲を、是非日本に届けて欲しいと提供してくれた。
リュウがM80のために紡いだこの唄。
無口なリュウが誰にも話さない想いを載せたこの唄。
それを違う形で発信することに躊躇を覚えなくも無かった。
リュウにとっては、複雑な想いなのではないかと思ったのだ。
しかし、そうした強い想いが秘められた唄だからこそ、誰かの心に寄り添えるのかもしれないと感じていた。
この唄を聴いた瞬間に、その場にいた誰もが震災で被害を受けた日本を思い浮かべたのだから。
わたしの心配などは全く無用の気遣いであったとしか言いようが無い。
リュウは一毫の迷いも無く、日本の被災者の方々に少しでも寄り添うことができるなら、と望んだのだ。
『誰かを想う事に躊躇などするはずもない』といった風に、「日本に、届くといいな」そう言って、照れくさそうに顔を伏せた。
寡黙なリュウのストレートな言葉は、いつも澄んだ響きを持つ。
伝えたい言葉だけを飾り気無く表現するリュウは、きっと誰よりも言葉の持つ力を知っているのだろう。
そして、この企画では初となる日本人以外の取材対象者がリュウであることに、わたしは深い意味を感じずにはいられない。
(取材/文:中原美鈴)
リュウの応援歌、「丘の上の人」がCRIのエンタメ番組で紹介されます!
4月3日にスタートする閔亦氷(ミン・イヒョウ)アナ担当の新番組「エンタメ・ランド(Entertainment Land)」。
短波ラジオでは、毎週日曜日日本時間夜7:15より放送されますが、ネット連動企画である「CRIネットラジオ」では毎週日曜日日本時間夜9:00までに更新されることになっています。
記念すべき初回放送「日本震災応援スペシャル」の一発目で「丘の上の人」をお届けします。
オンエアをお楽しみに!
さて、「これからの中日交流を支える若者たち」、2回にわたってアーティスト・リュウ(陳立偉)さんから寄せていただいた日本への応援歌とその唄に込められた想いについてお届けしました。
来週は通常通り総集編第三回の掲載となりますので、こちらもどうぞお楽しみに!
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