今年のノーベル平和賞は、貧しい人に小口融資(マイクロクレジット)を提供するバングラデシュのグラミン銀行とその総裁・ユヌス氏が受賞しました。今回の受賞に伴い、中国で農村地区向けのマイクロクレジット制度や、グラミンモデルを積極的に実践してきた中国社会科学院農村発展研究所の杜暁山副所長が注目を集めています。
杜氏は1980年代初頭、中国社会科学院に入った後、ずっと農村問題を研究してきました。当時、中国国内では貧困扶助資金がなかなか多くの農民の手元に渡らない上、返済率もたいへん低いことに苦心していました。一方、バングラデシュでは、貧しい人を対象に、担保も保証もなしで、小口貸付を提供する「貧しい人向け」のグラミン銀行があって、しかも、その返済率がたいへん高いことに、杜氏とその同僚たちは驚きました。
このバングラデシュモデルの導入をめぐり、当時の中国では議論が二分していました。1993年、杜氏はバングラデシュを幾度も実地調査し、現地で開催されたマイクロクレジットの国際会議にも参加しました。またグラミン銀行のユヌス氏にも会見し、グラミン銀行が中国でプロジェクトを展開し、そのユニークなマイクロクレジットのやり方を中国でも実践するよう働きかけました。更に、杜氏はバングラデシュで研修を受けていた時に、グラミン銀行の信託基金から「ソフト融資」(低利子融資)を受けることに成功しました。帰国後、杜氏は早速河北省などの農村地区で試行を始め、その後、13年間にわたり、中国各地でグラミン・モデルを実践してきました。
杜氏は、最初の実践地に、北京から最も近い国家クラスの貧困県、河北省の易県を選定しました。その理由は、「北京から近いため、監督、管理しやすい。それに、地元政府も意欲的な態度で臨んでいる」からだと言います。1994年5月、杜氏及びその同僚たちの呼びかけにより、貧しい農民に小口融資を提供する「扶貧社」という組織が設立されました。扶貧社は、担保を必要とせず、また、貸付金は農家の家に直接届けられ、返済金も利子も農家の家に行って徴収することが特徴です。返済率を確保するため、「多世帯による連帯保証」という制度が導入されています。
一回目は、20数世帯の農家を対象に融資が提供され、その後、13年の間に、易県では全部で2万世帯の農家が「扶貧社」の小口融資を利用し、その中の6000世帯余りが貧しい生活状態から脱却できました。これまで、易県の扶貧社を見学、視察し、また研修に訪れた内外の参観者は、延べ一万人を超えました。ユヌス氏も1996年と1998年の二回にわたって、易県を視察し、易県での小口貸付の将来性を高く評価しました。
杜氏はこのほかも、河南省虞城県と南召県、陝西省丹鳳県で相次いで扶貧社の分社を設立し、実践を続けてきました。扶貧社の貸付利子は、当初8%?10%の幅に設定していましたが、その後、管理さえしっかりしていれば、8%でも十分採算がとれることが立証されたため、その後、貸付金利はずっと8%に固定されています。1997年年末になると、扶貧社の数多くの分社が収支のバランスが取れるようになりました。
「『貸付』である以上、商業利息という原則を遵守し、救済型という従来の観念を排除しなければならない」。長い間の実践で、杜氏は持続可能な貸付の大事さを痛感しています。
13年間の実践について、杜氏は「管理がしっかりしていれば、返済率は95%を上回ることができる。貧しい人ほど、得がたい融資のチャンスを大事にし、裕福な人よりも信用を重んじていると言える。要は、巧みな制度設計なのだ」、と振り返り、最後に、「小口貸付は、調和の取れた社会を構築する上で、必要不可欠なことである」とその重要性を強調しました。
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