北京
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北京在住20年になる経済学者、西村友作さん(対外経済貿易大学教授)にコロナ後の世界経済における中国経済の位置づけ、中日両国の相互補完関係の行方、そして、AI技術などに代表される中国の「新経済」の方向性などをめぐりお話を伺いました。
◆中国と日本、経済面の相互補完関係は続く
――コロナ禍での世界経済の持続可能な発展に向け、中国経済の位置づけをどうご覧になりますか。
中国は、世界の工場、世界の市場として、グローバル社会と緊密につながっており、世界各国の中国経済への依存度は高まっています。今後、中国経済が安定して発展し続けていくことこそが、世界経済にとってもとても重要だと思います。
第13期全国人民代表大会第5回会議 開幕の様子
――今年の政府活動報告では、李克強総理は「対外開放」と外資重視の姿勢を強調していました。中国経済と日本経済の相互補完性は今後も存在し続けるものとみていますか。
私個人的には、日中両国の相互補完関係は今後も続いていくとみています。しかし、その関係性は時代の変化に伴い大きく変わっていきます。以前は、日本企業が中国国内の安い労働力を使って製造し、そしてその製品を世界へと輸出する、いわゆる「世界の工場」モデルが主流でした。それが、国民の所得向上に伴い中間層が厚くなってきたことで、「世界の市場」へと徐々に変化しつつあります。中国国内の消費を目的とした投資は、今後も増えていくのではないかとみています。
また、デジタル分野においては、中国はデジタル先進国と言えるほど成長しています。一方、日本社会におけるデジタル実装は遅れており、昨年発足したデジタル庁などが、社会的なデジタルトランスフォーメーションを推し進めようとしている段階にあります。このような分野においては、日本が中国から学ぶことは多くありますので、両国企業の連携が期待されていると思います。
◆中国から発信を「日本は未来を選択していく上での一助に」
――西村さんは2019年、『キャッシュレス国家 「中国新経済」の光と影』に続いて、この2月に『数字中国(デジタル・チャイナ)―コロナ後の「新経済」』(中公新書・ラクレ)を出版しました。どのような気持ちでこの本を書き上げたか、また、日本の読者に一番伝えたいメッセージは?
中国に住むと、新しいことがどんどん起こっています。中国で広がるアフターコロナの経済・社会を理解することは、デジタル化が進む日本の将来を考えるうえでも重要だと思います。しかし残念なことに、新型コロナ禍で両国民の往来が制限され、日本人が実際に中国に足を運び、自ら体験することが叶わない状態が続いています。
この本を通じて、現在の中国のデジタル社会に対する理解を深めて、これからの日本はどのような未来を選択していくべきかを考える一助となれば幸いです。
――この2冊の著書はいずれも「ニューエコノミー」に着眼しています。「ニューエコノミー」という視点から、中国社会がこれまでの3年間の動向と今後向かっていく方向性について、どう実感していますか。
中国新経済(ニューエコノミー)の発展は、中国経済に大きな活力をもたらした一方で、急速に成長してきたことによるひずみも目立ち始めました。これに対し、近年中国政府の規制強化の動きもみられるようになってきています。
中国新経済は今後、さらに幅広い分野に広がっていくとみています。2010年代、デジタル決済をプラットフォームとする新経済はBtoC、つまり企業対消費者取引サービスが中心でした。この分野では様々なサービスが出揃い、徐々に成熟期へと移行しています。今後は、BtoB、つまり、企業対企業取引、さらには製造業分野などへの広がりが期待されます。
過去を振り返ってみると、中国新経済が急成長した背景には、「社会問題の解決」という共通点があります。現在においても、中国にはさまざまな社会問題が山積しており、このような分野を中心にさらに発展していくとみています。
――具体的にはどのような社会問題が考えられますか。
たくさんあると思いますが、その一つとして、いま問題となっているのは養老問題、高齢者の介護の問題の一つの手がかりになると思います。デジタル技術を使って、たとえば、日常生活の中で血圧など、様々な体の不具合をチェックしながら、それを日々の生活に取り込んでいく技術がすでに開発されています。そうした形で、健康寿命を長くするような医療関係の投資も行われていますので、これが徐々に広がりを見せてくると、デジタル経済、デジタル技術を通じて、中国の高齢化社会に役に立つのではないかと思います。
河南省鄭州市の高齢者デイケアサービス施設の様子
――「ニューエコノミー」に不可欠なハイテクについて、世界で台頭しつつあるデカップリングや保護主義の風当りを強くうけています。そうした中、中国は「ニューエコノミー」「デジタル経済」を推進する熱意をどうご覧になっていますか。
昨年発表された『第14次五ヵ年計画』では、「デジタル」について、「経済」「社会」「政府」の具体的な取り組みプランが示され、「数字中国(デジタルチャイナ)」の建設に向けた本格的な第一歩を踏み出しました。また、今年の政府活動報告でも、「デジタル経済の発展を推進する」という政策が明確に示されています。
最近私が注目しているのが、「東数西算(とうすうせいさん)」プロジェクトです。「数」はデータ、「算」は計算能力。つまり、東部地域に集中するビッグデータを、コストが比較的低い西部地域に移して計算するというプロジェクトです。データセンターの配置を最適化し、東部と西部の共同発展を促すことを目的としています。
これからもわかるように、中国では今後も政府主導で「数字中国(デジタルチャイナ)」の建設が積極的に進められていくと思います。
◆若者に求められるのは相手国への「正しい理解」
――2022年は中日国交正常化50周年の年です。経済学者として、両国のリスナー&大学生に発信したいメッセージがあれば、ぜひお願いいたします。
コロナ禍で両国間の往来が寸断された状況が2年以上も続き、現在、民間交流は停滞している状況にあります。
今の両国に必要なのは相手国に対する「偏見」ではなく、「正しい理解」だと思います。人間関係でも同じですが、理解はすべての基礎であり、理解無しに「友好」はあり得ません。
実際に相手の国を訪れ、自分の目でみて、国民と触れ合う機会が増えれば、自然と「正しい理解」は深まりますが、それができません。そのような中では、偏った情報だけではなく、様々な情報に触れることが大切だと思います。
私としましても、中国の大学に在籍する日本人経済学者ならではの情報や視点を基に、中国を知るためのヒントとなる情報を、中国の内側から発信し続けていきたいと思います。
【プロフィール】
西村 友作(にしむら ゆうさく)さん
対外経済貿易大学 国際経済研究院 教授、日本銀行北京事務所 客員研究員
2002年より北京在住。
2010年に対外経済貿易大学で経済学博士を取得し、同大学で日本人初の専任講師として採用される。同副教授を経て、2018年より教授に。
専門分野は中国経済・金融。メディアでは主に中国のキャッシュレス、フィンテック、新経済(ニューエコノミー)などを解説。
主な著書は『キャッシュレス国家 「中国新経済」の光と影』(文春新書、2019年4月)、『数字中国(デジタル・チャイナ)―コロナ後の「新経済」』(中公新書・ラクレ、2022年2月)。
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