北京
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北京冬季オリンピック男子スノーボード・スロープスタイルで銀メダル、ビッグエアで金メダルに輝いた蘇翊鳴(そ・よくめい/スー・イーミン)選手。彼は18日に、18歳(中国では成人)の誕生日を迎えました。これに際して、彼のコーチを務める佐藤康弘氏はCMGのインタビューに対し、「中国だけでなく、世界にも貢献できるような人間になってほしい」と期待を示しました。
蘇翊鳴選手と共に臨むビッグエアの決勝
佐藤コーチは蘇選手が14歳の時に彼の指導を始めました。これまでの3年半のうち、コロナ禍で直接的な指導が困難であった1年半の期間も、オンラインでのコーチングを続けました。蘇選手をオリンピック初出場と2種目でのメダル獲得に導いた立役者として、佐藤コーチには中国のファンからは多くの感謝の声が届いています。そのことに触れたインタビューに対し、佐藤コーチは「僕は、スポーツにおいて何が大事なのかを、小鳴(シャオミン、蘇選手のこと)に逆に教えてもらった。これから指導する日本人の子ども達や親御さんにも、そのことをしっかりと伝えていきたい。それが使命だと感じている」と答えました。
金メダルを手に喜ぶ蘇翊鳴選手
蘇選手が7日のスロープスタイルの決勝で、ミスジャッジで金メダルを逃したことを受け、中国のネット上では順位を見直すべきだとの声が一時高まりました。そんな中、佐藤コーチと蘇選手は、ジャッジの仕事の大変さを理解し、「自分たちは判定を受け入れる旨を伝えてある」と沈静化を求める公開レターを発表。世論は収まったものの「次のビッグエアでは金を取らざるを得なくなった」と大きなプレッシャーにさらされたと話します。
かねてより国の垣根を乗り越えたスポーツ交流を重視してきた佐藤コーチは、2018年、日本代表の指導も継続することを条件に、中国国家体育総局の招きを受け入れて中国代表のコーチに就任。北京冬季オリンピックには、日本からは教え子である鬼塚雅、岩渕麗楽、大塚健の3選手が出場しています。特に大塚選手は2018年と2019年の X Games スノーボードビッグエア部門で、二大会連続優勝した実力者。蘇選手にとってはキャッチアップの目標でもありました。
ビッグエアでの優勝決定に大泣きする蘇翊鳴選手を抱擁する佐藤コーチ
ビッグエアの予選が始まる前の公開練習時、佐藤コーチは合間を縫って大塚選手の指導も行いました。その時、大塚選手の滑りに確かな手ごたえを感じながらも、自身の心の葛藤に気づいたそうです。「健にはどうしても表彰台に上がってもらいたい。でも、小鳴には絶対に金メダルを取らなきゃいけないという使命がある。健の実力が高まると、小鳴の金メダルの可能性は低くなってしまう」。しかし、板挟みの心境で、小鳴選手に対し「ごめんね。僕の立場はめちゃくちゃだ」と謝ると、「大丈夫だよ。僕が上達できたのは健のおかげでもある」と返ってきて、佐藤さんは涙が止まらなかったと振り返りました。
「今までは、競技が上手ならばメンタルは勝手についてくるものと思っていた。けれど、今回の大会を通して、人を思いやる、尊敬する気持ち、つまり愛が一番大事だと分かった」と語る佐藤コーチは、蘇選手の人間性こそが彼の成長の土台だと評価しています。
ジャンプ台で手を合わせて祈る佐藤コーチ
18歳の誕生日を迎えた愛弟子の今後について、「思いやりのある彼のまんまで成長していってほしい。それでいて、いろんな知識を身につけて、さらに大人になった時に、中国のみならず、世界に対して貢献できるような人間になっていって欲しい」と期待を寄せました。
なお、4年後に開催されるミラノ・コルティナ大会については、「引き続き小鳴のそばに立つ」と話し、「さらに技に磨きをかけて、さらに違う技を習得する」ことを視野に入れ、プランを考え始める決意を示しました。
◆【CRIインタビュー】音声で聞く佐藤康弘コーチの取材(2022年2月22日にオンエア)
(取材&記事:王小燕、校正:CK、梅田謙)