北京
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中国では、2004年のアテネオリンピック女子ダブルスで李婷/孫甜甜ペアの金メダル獲得に続いて、2011年のフランスオープンで李娜選手が優勝したことを背景に、じわじわとテニスブームが高まり続けてきました。
2004年から毎年開催されてきた「チャイナ・オープン」を代表するように、秋になると、全国各地で毎週のように大小様々な試合が行われています。コロナ禍で「チャイナオープン」は2年連続で開催を見合わせていますが、その一方で、アマチュアスポーツとしてのテニスは、中国ではすそ野拡大に向けてしたたかな歩みを続けています。
◆テニスの秋 北京で全国最大のクラブオープン開催
10月初めの国慶節連休中、北京郊外の室内テニスセンターでは、24面あるテニスコートがフル稼働していました。ここで全国120のクラブチームが出場したトーナメント戦が4日間にわたって開かれました。「天天有網球クラブオープン年度総決戦」と題したこの大会は、クラブ向けアマチュア大会としては全国最大規模と言われています。
「天天有網球」クラブオープンでの記念撮影〔主催者提供写真)
普段は「甲乙丙丁」の四ランクに分かれて、月ごと、三か月ごと、年ごとに試合が行われ、成績に応じて所属ランクが昇格、降格します。当日は今年の総当たり戦で、各クラブからダブルス3チームずつが出場し、それぞれのレベルの下位チームと上位チームによる入れ替え戦が行われて、120組の順位を決めました。
北京には、テニスのレッスンと試合運営を行うプラットフォームが複数ありますが、その中で「天天有網球」は、2010年にテニスの大衆化を目指して、有志達により立ち上げたもの。「天天有網球」という名称は直訳すれば、「毎日テニスをやる」です。文字通り、レッスンは毎日実施しており、試合は個人種目から団体種目まで、レベル、ランクの異なるものが毎週、毎月開催されています。
開会式で挨拶する「天天有網球」発起人の王鈞さん(中央)〔主催者提供写真)
発起人はスポーツを司る政府省庁「国家体育総局」で副局長を定年した王鈞さん(72歳)です。当初は政府省庁の公務員を対象にしていましたが、現在は北京を中心に、近隣では天津、華北、遠くは長江流域、珠江流域にまで広まり、小学生から定年退職者まで約2万2千人の会員を有し、関連するテニスクラブは約300に上るそうです。
「天天有網球」クラブオープン 授賞式の様子〔主催者提供写真)
中国唯一のテニス専門誌「テニスワールド」の編集長で、大会広報担当の崔偉さんによると、参加費は1チームあたり千元で、上位3位のチームにはそれぞれ1万元、8千元、6千元の賞金が授与されます。自費で賄うことが基本ですが、慈善基金や企業から支援を受ける場合もあります。これまでの最多の出場記録は、152チーム計1000人でした。
◆「天天有網球」 すそ野拡大に向け壁を取り払う改革を
ところで、「天天有網球」の試合会場を訪れてみると、男子二人と女子二人によるダブルスが行われていたことに驚きました。これについて、「天天有網球」の運営会社を経営する段少武総経理は、中国では女性プレイヤーが約3割しかいない現実に触れ、裾野を広げるために、「最大包容力」を心掛けて改革を行ったと話しました。
「天天有網球」運営会社の経営者・段少武さん
「試合を性別、年齢、地域、職業などで分けると、どの部門も小規模になってしまいます。そのため、レベル分けのみを残して、それ以外の壁はすべて取り払いました。その代わり、女子二人が男子二人と対決する場合、女子一人につき0.5ポイントずつ加算されるように、詳細な点数加算システムを導入しています」
もう一つの工夫は、同じ金額の参加費を払っても、実力が弱いプレーヤーほど試合回数が少ないということにならないよう、どのチームも同じ回数の試合に出られるように考案した点です。
当日の大会で、強い男子二人ペアとの対決で負けた女子プレーヤーの欧陽さん(32歳)は、こうした仕組みの意義をプラスに評価しました。
テニスプレーヤーの欧陽さん
「1点の加算で、相手との実力差を十分補えるものではありませんが、それを承知した上で参加を決めたので、少なくとも気持ちでは決して負けたくないという覚悟はできています。どんな相手になるのか分からないので、マインド面で良い鍛錬になっています」
女子対男子のダブルスの試合後、互いに称え合う両組〔主催者提供写真)
段さんはまた、「最大包容力」には、車いすテニスも含まれていると言います。2018年から、「天天有網球」の試合に車いすテニスのプレーヤーも参加するようになりました。中国では初めての試みで、画期的なことだと評価されています。「身障者と健常者の対話を増やし、彼らの社会進出につながることを願っている」とテニスが持つ社交性に段さんは高い期待を寄せています。
車いすテニス選手が初めて参加した2018年の大会〔主催者提供写真)
◆テニスの文化も同時に発信
昨年の北京では、感染症対策のため一部のテニス場が長い期間、一時閉鎖されたままでした。活動拠点を失った段さんは現状を打破すべく、自宅付近の元物流倉庫だった遊休地を見つけて、そこに4面のテニスコートを整備しました。テニス四大大会のコートの色をまねて、青、緑、赤、灰色のコートをデザインしました。一番メインの客層は近くのハイテク産業パークに入居している企業会員ですが、放課後の子ども向けテニス教室も目玉の一つです。利用客の少ない平日の昼間の時間帯には、「四大大会での模擬体験」をしたいと、遠くから訪れるプレーヤーもいます。
テニス場近くに陳列されたラケット展
コートの対面にある本屋の一角には、木製のラケットから最新のカーボンラケットまで陳列しているコーナーがあります。「スポーツだけではなく、テニスにまつわる歴史やマナーも幅広く知ってほしい。私は、テニスは中国で、子どもの人間形成や、様々な人を結びつけるライフスタイルの一つにしたいと考えている。今後も活動を続けていく」と段さんは中国テニスへの思いを語りました。
李娜さんサイン入りのボールも
続く
【リンク】
<スポーツの秋>「テニス人口2000万人」 更なるすそ野拡大が進む中国(下)
【スポーツCHINA】#32 中国最大規模の市民テニス大会(前編)
【スポーツCHINA】#32 中国最大規模の市民テニス大会(後編)
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