北京
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2022年の中日国交正常化50周年を前に、日本では岸田文雄新内閣が発足。中日関係の今後の成り行きをめぐって、中国社会科学院日本研究所の楊伯江所長にお話を伺いました。
中国社会科学院日本研究所・楊伯江所長
経済安保はブロック化を招くか 日本の対中政策がはらむ牽制と協力の二面性
――日本の対中政策の視点から、岸田新内閣の顔ぶれをどう評価しますか。
岸田氏を勝利に導いた主な理由には、まず派閥力学が挙げられます。自民党総裁選で党内の大きな派閥である岸田派、細田派、麻生派、竹下派のほとんどの議員が岸田氏を支持しました。次に、岸田氏の政治理念が他の候補者たちと比べると比較的受け入れられやすく、政策の主張やデザインがより体系的に整っている点が挙げられるでしょう。
閣僚人事からは岸田首相の政権運営の方向性や重視したい分野が垣間見えます。たとえば、外相と防衛相が留任されていることから、外交政策と安全保障政策は基本的に継続されると思われます。また、「経済安保相」が新設されたことから、経済安全保障に注力したい意向が見て取れます。
――新設の「経済安保相」は「対中国戦略の司令塔」と位置付けられているようですが、これをどう見ますか。
一般的に「経済安全保障」と言う場合には、「技術流出の防止」「ルール作成の主導」「海外サプライチェーンの安全確保」の3つを指します。
しかし、これらの目標を達成するための行動は、日本自身のビジョンから乖離する可能性があります。なぜなら、岸田政権が主張する「新しい資本主義の実現、成長と分配の好循環」の大前提が経済成長であるためです。少子高齢化の現状から、成長のためには内需だけでなく海外市場をも取り込む必要があり、その筆頭にあるのが中国マーケットです。
そうした視点から見れば、経済安全保障は国家間のブロック化を強め、あるいは分割と対立をも招く恐れがあります。その辺の舵取りにおいて、岸田氏の政治家としての知恵が試されていると思います。
――岸田氏の当選に、中国各界からは期待と懸念の両方の視線が注がれています。人権問題や経済安全保障、外交などで中国に対し強硬姿勢を見せている面が懸念される一方で、「本当はハト派だ」とする声もあります。岸田政権時代の中日関係をどう展望しますか。
大局を言えば、岸田内閣は前任の敷いたレールに沿って進むでしょう。
それは、岸田政権の誕生には保守派勢力の支持があったためです。政策面や人事面での見返りは必要です。ですから、政策決定が党内の保守派勢力からの牽制を受けることになるというのは、客観的な事実と言えるでしょう。
米国の存在も大きく影響します。バイデン政権発足後の米国は、日本を同盟関係強化の最初の目標に据えており、日本に対して中距離ミサイル配備の容認や、中国を締め付ける多国間メカニズムへの参加などを迫っています。そうした米国の戦略的需要を背景に、自民党内では対中強硬姿勢は一種の共通認識になりつつあります。そのプレッシャーの中で、岸田氏が強硬姿勢を改めることは今後も期待できなさそうに見えます。
しかし一方で、岸田氏が代表を務める「宏池会」には、自民党内の穏健派として経済を重視する伝統があります。岸田氏は自身の豊富な政治経験に加えて、宏池会のDNAをも受け継いでいます。ここに、両国が経済協力や地域協力などでの互恵を目指し、二国間関係が良い方向へと向かう可能性が秘められているようにも思えます。
総じて言えば、岸田内閣になっても対中政策に大きな変化はなく、牽制と協力を併用してくるだろうと見ています。
チャンスと課題が併存するが、協力のポテンシャルは大きい
――岸田政権の今後の出方をどう見ますか。
日本では10月末にも衆議院選挙が行われ、来年7月に参議院選挙も予定されています。岸田内閣が長期政権になるかどうか、まず民意の試練を受けることになります。
岸田政権にとっての直近の国内問題には、コロナ対策と、経済と国民生活の立て直しが挙げられます。岸田首相が掲げる「新しい資本主義の実現」と「成長と分配の好循環と、コロナ後の新しい社会の開拓」という理念からは、新自由主義時代に広がった格差社会を是正したい姿勢が見えます。その実現の前提は、成長です。少子高齢化を背景に、どうすれば成長が実現できるかが、大きなチャレンジになるでしょう。
外交問題における日本の出方は、「中国と米国の競争」という関数を構成する変数の一つとも言えます。軍事面では、既存の協定、あるいはすでに調印済みの措置は実施されるでしょう。このほかには、以下の2つに注目しています。▼まずは、国際世論に訴えた気運づくりが、岸田内閣の特徴になるかもしれないこと。▼次に、産業チェーンとサプライチェーンを再調整することで、いわゆる「半導体同盟軍」を形成し、中国の台湾問題での出方をけん制しようと狙ってくることです。
――来年で国交正常化50周年を迎える中日関係の成り行きをどう展望しますか。
課題もチャンスも極めて大きいと思います。
課題の一例は、台湾問題で踏み込んだ発言をする日本の政治家が次から次へと現れていることです。昔では考えられないような「暴言」を、平然と公の場で口にする人が現れています。この点から、日本の政治エコシステムに大きな変化が生じ、対外的な右傾化が進んでいることを垣間見ることができます。これは両国関係の厳しい現状と言えます。
しかし、もう一方では、コロナ禍で世界経済がダメージを受けた中でも、日本の対中貿易は成長を続けており、日本の対外貿易に占める割合が23.9%に上って、史上最高レベルになっています。同時に、日本にとっては対中投資の収益率も海外投資の利益の中で最も高く、史上最高の16.7%に達しています。日本経済を中国から切り離すのは現実的とは言えません。
岸田政権に、経済成長と国民生活の向上で一肌脱ぐ考えがあるのならば、国際協力、とりわけ中国との協力は不可欠です。そういう意味で、中日の協力には大きなポテンシャルがあります。経済、スポーツ、文化、シンクタンク、社会ガバナンス、地域協力などが主な協力分野になるでしょう。
また、東京五輪には中国から史上最大規模の海外選手団が派遣されました。来年の北京冬季五輪を控えて、双方は引き続き協力していくべきです。さらに、もし岸田政権の期間内に中国のCPTPP加入に進展があれば、間違いなく中日関係を進展させる新たなポイントになるでしょう。
中日関係が世界の安定と繁栄につながる 岸田首相のかじ取りに期待
――最後に、日本ウォッチャーとして、中日関係の健全な発展のために訴えたいことがあれば、ぜひお聞かせください。
中日関係は元から複雑に入り組んだ関係です。折しも、世界は百年に一度の大変革の時代に入り、これに地政学的要素も加わって、両国の間には多くのいざこざや相違点があります。しかし、だからこそ方向性をしっかりと把握し、正しい軌道に沿って健全かつ安定的に関係を発展させることに努めなければなりません。
目下、中日間の相違として最も際立っているのは政治と安全保障問題です。台湾問題は元より中国の内政ですし、釣魚島問題においては効果的な管理とコントロールを確保し、突発的な事態の発生を防がなければなりません。
中国の対日本政策は一貫しており、明確です。岸田氏の当選後、習近平主席と李克強総理が相次いで祝電を送り、「両国の善隣友好協力関係はアジアや世界の安定と繁栄につながる」と強調し、「来年の国交正常化50周年を共に迎えよう」という意向を表明しました。中国外交部も「中国は日本の新しい政権チームと共に、中日関係を正しい軌道に沿って健全かつ安定的に発展させることを望んでいる」と表明しました。今、ボールは日本側にあると言えます。国内政治による外交への過度な介入を避け、外交と内政のバランスをとり、調和のとれた安定した周辺環境を構築することが、政権の長期安定につながります。ベテラン政治家である岸田首相の舵取りに期待したいと思います。
(取材・記事:王小燕、校正:梅田謙)
【リンク】
中日首脳の電話会談は「両国関係の幸先良いスタート」=中国側専門家
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