【観察眼】騎馬武者の“力強さ”が日本の防衛をどこへと導くと言うのか

2021-07-22 21:42  CRI

 騎馬武者が表紙を飾る日本の2021年版防衛白書が公開された。岸信夫防衛相の下では初の作成となったこの白書からは、対中姿勢の変化がにじみ出ている。

「台湾」の扱いの変化に“政治的メッセージ”との声

 日本を取り巻く安全保障上の環境について、今年の防衛白書が真っ先にやり玉に上げたのは中国だった。

 まず、岸防衛相は前文にあたる「刊行に寄せて」で、中国で施行が開始された「海警法」について触れ、同法がまるで日本の“正当な権益”を損ね、東中国海や南中国海などの海域の緊張を高めたかのような書きっぷりで、中国への警戒心をあらわにしている。

 次に、今回の防衛白書では初めて、「台湾安定は日本の安全保障や国際社会の安定にとって重要」だと明記され、「軍事バランスは全体として中国側に有利な方向に変化している」とも示されている。これまでの防衛白書では「台湾」に関する内容は「中国」の章に入れられていたが、今回からは新設された「米国と中国の関係など」という節に入れられている。さらに、「中国軍の配置と戦力」として掲載されている図表は、これまでは台湾も中国大陸も同様にカラー表示されていたが、今回は中国大陸のみがカラーで表示され、台湾とそれ以外の部分は灰色になっている。

 これについては、日本の論客たちすらも「こんなにはっきりとした政治的メッセージはない」と指摘している。では、これはどのようなメッセージなのだろうか。真意がどこにあるのか、見極める必要がある。

たび重なる政治家の“失言”は偶然か?

 注目すべきは、この防衛白書の記述変更に先立つように、今年に入ってから日本の当局者や政治家による失言が相次いだことだ。

 まず、3月に日米外務防衛閣僚級協議(2プラス2)での共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調。4月には日米首脳会談後の共同声明で52年ぶりに「台湾」に言及し、それは6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)の共同声明でも踏襲された。同6月中に、菅首相は党首討論で台湾を「国」と表現し、岸信夫防衛相は米メディアの取材に対して台湾の平和と安定が「日本に直結している」との認識を示し、中山泰秀防衛副大臣は「我々は民主主義国家としての台湾を守る必要がある」と主張した。7月に入ると、麻生太郎副総理兼財務相が「台湾が有事の場合、安全保障関連法が定める存立危機事態として認定する可能性がある」と発言し、そうなれば、日本が直接攻撃を受けなくとも、一定の要件を満たせば集団的自衛権を一部行使できるとの考えを表明した。

 これら一連の失言の後には、加藤勝信官房長官が火消しするかのように、「日本と台湾との関係を従来通り、『地域』と位置付けることに変化はない」「集団的自衛権の行使について、政府として決まった方針があるわけではない」などと表明を繰り返した。だが、政治家たちによる度の過ぎた発言の数々、“失言”と呼ぶにはあまりに頻繁だ。これは偶然ではなく、実は「一つの中国」の原則を攻撃するシグナルだったのではないかという疑念を懐かざるを得ない。

 2021年版防衛白書については、日本国内でも警戒を呼び掛ける声がある。「なぜ、『台湾海峡』ではなく、『台湾』をめぐる情勢なのか」という、表現への違和感を指摘する日本の中国専門家の声が報じられた。また、元内閣審議官の古賀茂明氏は週刊誌への寄稿で、今回の防衛白書は日米連携のための「ストーリー」として、「中国脅威論」と「中国悪玉論」を国民に伝え、議論の中心に台湾という“非常に効果的な材料”を使ったと鋭く切り込んでいる。

 なお、日本経済新聞の4月の世論調査の結果では、日本の台湾海峡の安定への関与について74%が「賛成」で、反対はわずか13%、野党支持層でも「賛成」が77%だった。古賀氏は記事の中でその結果に触れ、「台湾への純朴な好意が有事と結びつくと非常に危険」と指摘し、「五輪の陰で進行する戦争への危機に早く気付くべき」だと注意を呼びかけている。

【観察眼】騎馬武者の“力強さ”が日本の防衛をどこへと導くと言うのか

歴代防衛白書の表紙(右下は1970年の創刊時、他は直近5年間のもの)

騎馬武者に込めたという“強固な防衛意思”、その真意は?

 今年の防衛白書は、表紙に若手画家・西元祐貴氏の墨絵を採用した。「躍動的かつ重厚感ある騎馬武者」が、防衛省・自衛隊の“力強さ”と日本の“強固な防衛意思”を表現しているという。ところが、この騎馬武者のモデルと目される楠木正成は鎌倉時代の武将で、後醍醐天皇を守る「湊川の戦い」で敗戦し自害している。中国の学者・廉德瑰氏は、鎌倉時代には(楠木正成の生きた時期より前ではあるものの)フビライが二度にわたり日本遠征をしたことから、今回の騎馬武者の採用には、「日本は中国の脅威を恐れない」というメッセージが込められていると解釈している。同氏はさらに、「楠木正成から想起するのは、明治以降に天皇のために戦った現代の『武者』たちの存在だ。防衛白書の制作者は、皇国史観を思わせる武者のイメージを起用し、世界にどのようなメッセージを伝えようとしているのか」と疑問を投げかけた。

 中国人がこのような疑念を抱くのは当然だ。明治政府による1874年の台湾出兵から数えると、日本の中国への侵略と植民地支配の歴史はその後約70年にわたって続いたことになる。台湾こそが日本の中国侵略の第一歩であった。日本による台湾の植民地支配は約50年続いたが、その中では霧社事件など帝国主義の侵略者に抵抗する闘争も数多く起きた。

 こうした歴史を踏まえて、日本は台湾と向き合う際には自身の背負う歴史的責任と過去の過ちを決して忘れてはならないと指摘したい。

 台湾は中国の不可分の一部分であり、台湾問題は元より中国の内政である。もし、日本が軍事的な目線で台湾問題をとらえるならば、多くの中国人が過去の歴史を今と重ね、反発することだろう。

「杖るは信に如くは莫し」 互恵・ウィンウィンこそが唯一の道

 「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重する」

  ーーこれは1972年、中日国交正常化の際に発表された「中日共同声明」の一部であり、現在の両国関係を語る上で忘れてはならない、先人たちが築き上げた初心と言える。

 中日関係史学会の呂小慶常務副会長は、2021年版防衛白書の内容を受けて、「台湾問題を軍事的レベルに昇格させようというシグナルが出された」と評し、そうした姿勢について、「中日関係の政治的基盤を深刻に破壊し、台無しにする危険性をはらんでいる」と強く懸念している。

 日本は、ペースこそ緩やかではあるが兵器・装備の強化を着実に進めており、特に海上戦力は世界有数となっている。見方を変えれば、台湾問題は日本が軍備を増強するための絶好の口実として利用されているのではないだろうか。かつて、日本から侵略され、植民地にされた中国にとっては目にしたくない状況とも言える。

 無責任な「中国脅威論」を声高に叫び、煽り立て、台湾情勢をセンセーショナルな議論へと巻き込もうというやり口は、本当に「台湾を守る」ための行動なのか。軍備拡張の正当化こそが、真意なのではないだろうか。

 中国と日本は、来年で国交正常化50周年を迎える。国交が結ばれてから半世紀にわたって、両国は数えきれないほどのメリットを互いに享受してきた。この歴史を鑑みれば、互恵・ウィンウィンの関係こそが中日が付き合っていく上での唯一の選択肢であることは一目瞭然だ。

 では、どうすればこの関係が保たれるのか。かつて村山富市元首相が用いた表現を借りたい。杖(よ)るは信(しん)に如(し)くは莫(な)し――頼れるものとして、信義に勝るものなどない。まずは、両国間の合意事項を守る。そして、台湾独立勢力と結託することなく、相互の理解を深める努力を続ける。それこそが中日関係にとって唯一の正しい道であり、信頼を築く上での出発点である。

(CRI日本語部論説員)

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